昨日24日のベルギー時間20:10より、エリザベート王妃国際コンクールのファイナルが始まりました。ファイナリスト6名が毎晩1名ずつ登場して、今回のコンクールのために書き下ろされた新作、及び、任意のconcertoを演奏なさいます。昨晩は、ロシアのヴィタリ・スタリコフさんが、新作とチャイコフスキーの1番を演奏なさったはずです。ただ、日本時間は7時間進んでいますから、真夜中の3:10からとあって、わたくしは拝聴いたしませんでした。
 ところで、セミ・ファイナルの結果が発表されたのは15日の深夜でした。それから10日も間が空いたのはなぜ? とお思いの方もおられるかも知れません。
 実は彼ら6名は、この間、世間から隔絶されて、前述の真新しい新作を与えられ、それを一人で孤独にお勉強していたのでした。解釈の情報やらヒントなどを探ってはいけないということから、スマートフォンも携帯電話もノートパソコンもすべて当局に没収されますので、外部との連絡は一切取れなくなります。
 かつて、ナディア&リリー・プーランシェのミニ伝記を書きました時、彼女たちがフランスの作曲家の登竜門、ローマ大賞を受けた20世紀初め、このコンクールは厳格なルールのもと、参加者をパリの東北、オワーズ地方コンピエーニュの古城に隔離して、フーガ、合唱曲、カンタータを書かせていく、と知り、恐ろしい気持ちがいたしたものです。古いお城を観光で訪れるのならロマンティックですが、この中に閉じ込められて何週間も外部と隔絶され、ひたすら五線紙とピアノに向かわなければならないとなると、これはほよほどの克己心が必要かと存じます。
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 現代はその頃とは比較にならないほど便利な情報手段をほとんど誰もが当たり前に持っているだけに、それを絶たれる辛さは、さらに大きいでしょう。でも、それに耐えて、何の手掛かりもない新作を解釈して自身の演奏像を打ち立て、かつ、大作concertoをしっかりとまとめ上げていく、孤独な闘いを勝ち残った者が、エリザベートの覇者になれるというわけです。ピアノの演奏技量だけではなく、強靭なメンタルも問われるとは、まことに、気の遠くなるようなお話です。
 その新作とは、ブルーノ・マントヴァーニさんという作曲家に委嘱された曲で、タイトルは『D’un jardin féérique』(妖精の園より)。タイトルからも想像できますように、ラヴェルの『マ・メール・ロワ』の終曲『妖精の園』からインスパイアされたものだとか…。
 
 今晩から先の演奏者は下記の通りです。

 525日 火曜日 阪田知樹       : ブラームスの2

 5月26日 水曜日 務川 慧悟        : プロコフィエフの2番

 5月27日 木曜日 セルゲイ・レドゥキン : ラフマニノフの3番

 5月28日 金曜日 ドミトリー・シン   : ラフマニノフの3番

 5月29日 土曜日 ジョナサン・フルネル: ブラームスの2番

 阪田さんと務川さんの演奏は、できましたら拝聴させていただく予定でございます。
 ご関心のあられる方は下記よりどうぞお聴きくださいませ。繰り返しますが、真夜中と申しますか、未明の3:10からでございます。
 Queen Elisabeth Competition
                                                 2021年5月25日記