本日、新国立劇場『ドン・カルロ』を拝見してまいりました。マルコ・アルトゥーロ・マレッリ演出・美術によるこのプロダクションは、2006年、2014年に続く3回目。2001年に別のプロダクションで上演があったのを数えても、同劇場オープン以来、『ドン・カルロ』は今回で4回目で、それほど公演数の多い演目でないのは、やはり大きくて重いグランド・オペラだからでしょう。それをよくぞこのコロナ禍に採り上げてくださいました。イタリア・オペラでわたくしの最も好きなのは、たぶんこれですので、大感謝でございます。
その理由を説明するのは難しいのですが、このオペラのテーマがヨーロッパの歴史と宗教と政治に深く深く根ざしていて、その中で翻弄される人々の運命が、不条理などという生易しいものでない、人知を越えたどうにもならないところで悲しくやるせなく描かれているから、とでも申しましょうか。
今日も、人物たちそれぞれの心の苦しみ、悲しくも健気な決意、悲劇的な運命が胸に迫って、マスクを幸いな盾として、何度もわんわん泣いてしまいました。
観る者の涙腺を激しく刺激せずにはおかないヴェルディの名旋律を、演歌にはせずに、しかし人肌の温もりをもって歌い上げてくださった、パオロ・カリニャーニ・マエストロと東京フィルに感謝いたします。
歌手の皆様、高い水準でどなたもたいへん結構でした。
とりわけ、感心したのは、3月の同劇場『ワルキューレ』に急遽代役でジークリンデを成功させたばかりの小林厚子さんのエリザベッタ。のびの良いお声、気品ある立ち姿。血の通った演技。最高でした。ロドリーゴの高田智宏さんも上背があって存在感抜群。お声もご立派。ドン・カルロは新国立劇場初登場のジュゼッベ・ジバリさん。人間味あるテノールなので、役にぴったり。フィリッポ2世は、つい先日、飯守泰次郎先生傘寿記念『リング』ハイライトでハーゲンの屈折した心情を見事に歌われたばかりの妻屋秀和さん.工ボリはアンナ・マリア・キウイさん。修道士は大塚博章さん。テバルトは松浦麗さん。
このオペラは、やはりシラーの原作があまりにも素晴らしく、ジョセフ・メリ、カミーユ・デュ・ロクルの台本もそれをよくおこしたものと思います。
登場人物の台詞で、それをきいただけで、もう号泣してしまいそうになる名言がいくつもあって、今日はそれらを堪能させていただきました。
許嫁だったエリザベッタを父フィリッポ2世にとられてしまったドン・カルロの「神はわたしに素晴らしい宝を下さったのに、今度はそれをお取り上げになってしまわれた」
フィリッポ2世の「妃はわしを愛していない。心を閉ざしたままだ。嫁いできた日、わしの白髪をみて悲しそうな顔をしたのを思い出す」
同じくフィリッポ2世が諫めようとするロドリーゴに言う「玉座の中をのぞこうとするな。王には王の孤独があるのだ」
夫に疑われて突き飛ばされたエリザベッタが、実家のフランス宮廷を想って泣き伏す血を吐くような叫び「ああ、お母さま、わたしはここではよそ者なのです」
枚挙にいとまがありませんので、このへんで筆をおかせていただきますが、さすがシラー大先生、泣かせていただきました。ありがとうございました。
2021年5月23日記
その理由を説明するのは難しいのですが、このオペラのテーマがヨーロッパの歴史と宗教と政治に深く深く根ざしていて、その中で翻弄される人々の運命が、不条理などという生易しいものでない、人知を越えたどうにもならないところで悲しくやるせなく描かれているから、とでも申しましょうか。
今日も、人物たちそれぞれの心の苦しみ、悲しくも健気な決意、悲劇的な運命が胸に迫って、マスクを幸いな盾として、何度もわんわん泣いてしまいました。
観る者の涙腺を激しく刺激せずにはおかないヴェルディの名旋律を、演歌にはせずに、しかし人肌の温もりをもって歌い上げてくださった、パオロ・カリニャーニ・マエストロと東京フィルに感謝いたします。
歌手の皆様、高い水準でどなたもたいへん結構でした。
とりわけ、感心したのは、3月の同劇場『ワルキューレ』に急遽代役でジークリンデを成功させたばかりの小林厚子さんのエリザベッタ。のびの良いお声、気品ある立ち姿。血の通った演技。最高でした。ロドリーゴの高田智宏さんも上背があって存在感抜群。お声もご立派。ドン・カルロは新国立劇場初登場のジュゼッベ・ジバリさん。人間味あるテノールなので、役にぴったり。フィリッポ2世は、つい先日、飯守泰次郎先生傘寿記念『リング』ハイライトでハーゲンの屈折した心情を見事に歌われたばかりの妻屋秀和さん.工ボリはアンナ・マリア・キウイさん。修道士は大塚博章さん。テバルトは松浦麗さん。
このオペラは、やはりシラーの原作があまりにも素晴らしく、ジョセフ・メリ、カミーユ・デュ・ロクルの台本もそれをよくおこしたものと思います。
登場人物の台詞で、それをきいただけで、もう号泣してしまいそうになる名言がいくつもあって、今日はそれらを堪能させていただきました。
許嫁だったエリザベッタを父フィリッポ2世にとられてしまったドン・カルロの「神はわたしに素晴らしい宝を下さったのに、今度はそれをお取り上げになってしまわれた」
フィリッポ2世の「妃はわしを愛していない。心を閉ざしたままだ。嫁いできた日、わしの白髪をみて悲しそうな顔をしたのを思い出す」
同じくフィリッポ2世が諫めようとするロドリーゴに言う「玉座の中をのぞこうとするな。王には王の孤独があるのだ」
夫に疑われて突き飛ばされたエリザベッタが、実家のフランス宮廷を想って泣き伏す血を吐くような叫び「ああ、お母さま、わたしはここではよそ者なのです」
枚挙にいとまがありませんので、このへんで筆をおかせていただきますが、さすがシラー大先生、泣かせていただきました。ありがとうございました。
2021年5月23日記
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