昨日5月16日は、薄い氷の下には中止命令?という鰐が口を開いて待ち受ける中、何とかその氷が割れることなく、一期一会の記念公演が無事に開催されて感動的な大成功を収めた、記念すべき一日となりました。

その公演とは、R.ワーグナー 「ニーベルングの指環」ハイライト特別演奏会
~飯守泰次郎 傘寿記念~、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団公演です。会場は東京文化会館大ホール。シティ・フィルが、桂冠名誉指揮者である、飯守泰次郎先生の傘寿を寿ぐために、3年がかりで準備を進めてきた未曽有のオーケストラ・コンサートでしたが、このたびの感染症拡大に伴う緊急事態宣言発出とその延長により、一時は会場使用に待ったがかかるかと、関係者一同、薄氷を踏む思いで準備を進めてこられました。
わたくしも気を揉んでおりましたところ、楽団長から、「50パーセント減だけれども開催できることになりました!」とのお知らせをいただいたのが、10日の月曜日でした。
飯守先生とバイロイトとのつながりが深く、今回もバイロイト祝祭劇場総監督のカタリーナ・ワーグナーさん、リヒャルト・ワーグナーの直系曽孫に当たられる方ですが、そのカタリーナさんが名誉監督として公演をサポートなさり、世界的ワーグナー歌手3名の出演に尽力されました。
飯守先生が新国立劇場のオペラ芸術監督在任中に成し遂げられた『ニーベルングの指輪』ツィクルスのジークフリート役で、世界的ヘルデン・テノールのシュテファン・グールドさんがジークフリート役、新国立劇場『ホフマン物語』コッペリウスや東京春音楽祭にも登場された名バス・バリトンのトマス・コニエチュニーさんが、アルベルヒ、ヴォータン、さすらい人、グンターの4役を務め、2014年バルセロナ・デビューの若き大型ソプラノ、ダニエラ・ケーラーさんがブリュンヒルデです。
クールドさん、コニエチュニーさんは何度も拝聴してその素晴らしさは存じ上げていましたが、ケーラーさんは初めて聴かせていただき、骨太の歌唱力とゆたかな表現力に驚きました。2014年デビューだそうですから、まだ、お若いソプラノで、2017年バイロイトのマスター・クラスではグールドさんのクラスに参加されたとのこと、さすが、グールドさんのお弟子さんです。今後、世界的なブリュンヒルデに成長されること間違いありません。「ダニエラ・ケーラーさん」というお名前をよく覚えておこうと思いました。写真はケーラーさんと妻屋さんです。
このお三方が、2週間の自主隔離に耐えて出演くださったおかげで、ハイライト版の演奏会形式ながら、『指輪』の深遠なる意味するところがありありと伝わりました。日本人歌手では、ハーゲンに妻屋秀和さん、ミーメに高橋淳さん、ヴォ―クリンデに増田のり子さん、ヴェルグンデに金子美香さん、フロースヒルデに中島郁子さんが扮されて、役になり切った名唱でステージを盛り上げました。
この公演のために編成されたワーグナー特別演奏会合唱団の35名の合唱がこれまた圧巻。マスク装着で入場されたので、歌う時ははずされるのかと思いましたら、そのまま歌われたのには、ああやはり、と思いましたが、きっと、マスク越しでも通る唱法をとことん研究されたのでしょう、目をつぶって聴いていればそれとわからないほど、迫力に満ちた、ギービヒ家の家臣団が出現していました。合唱団の皆様と、合唱指揮者の藤丸崇浩さんに大きな拍手を送りたいと存じます。
左から反時計回りに、飯守先生、ケーラーさん、グールドさん、妻屋さん、高橋さん、中島さん、増田さん、コニエチュニーさん、真ん中が金子さん。
14:00開始、途中休憩2回,終演は18:40、カーテンコールがいつまでも続いたので、実質5時間近い長時間公演でしたが、4夜にわたるはずの「指輪」ですから、よくぞここまで適格に抜粋してくださったものです。おかげさまで、この長大な物語の本質がひしひしと伝わり、『ブリュンヒルデの自己犠牲』熱唱では、もう感涙が止まりませんでした。
カーテンコールでは次第に立つ方の数が増えていき、途中、オーケストラによる『ハッピーバースデー』演奏、ケーラーさんからの飯守先生への花束贈呈もあって雰囲気は一層盛り上がり、最後は全員総立ちとなって、飯守先生に何度もステージに戻っていただきました。
【ニーベルングの指環・ハイライト 特別演奏会】
~
飯守泰次郎 傘寿記念 ~
指揮:飯守泰次郎
ブリュンヒルデ:ダニエラ・ケーラー
ジークフリート:シュテファン・グールド
アルべリヒ、ヴォータン/さすらい人、グンター:トマス・コニエチュニー
ハーゲン:妻屋秀和
ミーメ:高橋 淳
ヴォークリンデ:増田のり子
ヴェルグンデ:金子美香
フロースヒルデ:中島郁子
合唱指揮:藤丸崇浩
男声合唱:ワーグナー特別演奏会合唱団
管弦楽:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
名誉監督:カタリーナ・ワーグナー (バイロイト祝祭劇場総監督・演出家)
【R.ワーグナー/楽劇 『ニーベルングの指環』 ハイライト】(演奏会形式/字幕付)
●序夜 『ラインの黄金』 より
― 序奏 ~ 第1場 「ヴァイア!ヴァーガ!… 」
~ アルベリヒの黄金強奪(ラインの乙女たち、アルベリヒ)
― 第4場 神々のヴァルハラへの入城 (管弦楽)
●第1日 『ワルキューレ』より
― 第3幕 第1場 ワルキューレの騎行
(管弦楽)
― 第3幕 第3場 ヴォータンの別れと魔の炎の音楽
「さらば、勇敢ですばらしい娘よ!」(ヴォータン)
●第2日 『ジークフリート』 より
― 第1幕 第3場 ジークフリートの鍛冶の歌
「ホーホー!ホーハイ!鎚よ、丈夫な剣を鍛えろ!… 」(ジークフリート、ミーメ)
― 第2幕 第2場 森のささやき
(管弦楽)
― 第3幕 第2場 「上の方を見るがよい!… 」(さすらい人、ジークフリート)
― 第3幕 第3場 「太陽に祝福を!光に祝福を!… 」(ブリュンヒルデ、ジークフリート)
●第3日 『神々の黄昏』 より
― 序幕より 夜明けとジークフリートのラインの旅 (管弦楽)
― 第2幕 第3場 「ホイホー!… 」
~ 第4場 「幸いなるかな、ギービヒ家の御曹司!」(ハーゲン、男声合唱)
― 第2幕 第5場
「ここに潜んでいるのはどんな魔物の企みか?… 」(ブリュンヒルデ、ハーゲン、グンター)
― 第3幕 第2場 「それから小鳥は何と?… 」
~ ジークフリートの死と葬送(ジークフリート、ハーゲン、グンター、男声合唱)
― 第3幕 第3場 ブリュンヒルデの自己犠牲
「太い薪を積み上げよ… 」(ブリュンヒルデ、ハーゲン)
2021年5月17日記
コメント