昨日はエリザベート王妃国際コンクールのピアノ部門が始まったことをお伝えいたしましたが、今日はその「ピアノ」の発明者クリストフォリさまのお誕生日という面白い巡り合わせでした。現在のピアノの直接の祖にあたる、ハンマーアクション機構を持つ鍵盤楽器を1700年前後に発明したバルトロメオ・クリストフォリさまは165554日、ヴェネツィア共和国のパドヴァに生まれました。

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          クリストフォリさまの製作した現存最古の「ピアノ」1720年製 メトロポリタン美術館蔵

 長じて、チェンバロ製作者となった彼は、フィレンツェのメディチ家に楽器庫主任として仕えました。彼の製作するチェンバロという楽器は、鍵盤を押すと梃子の原理によって鍵盤の反対側の先端が跳ねあがり、そこにセットされているジャックという木片に埋め込まれた爪が上に張られた弦をはじいて音を出す、という仕組みを持っていました。こうして発音される音は、銀の鈴を振るようだと形容されるほど美しかったのですが、鍵盤を強く押してもそっとやさしく押しても、爪が弦をはじくという動きにさほど変化は生じませんから、音の強弱をつけるということが、ほとんどできなかったのです。チェンバロ奏者たちはそこにこの楽器の表現力の限界を感じて悩み、製作者たちは何とか彼らの欲求不満を解消すべくあれこれと知恵を絞ってはみたものの、どんな試みもうまくいきません。

そんなとき、クリストフォリさまの頭にひらめいたのは打楽器の原理でした。

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 打楽器は、発音体を直接叩いて音を出す単純な原理の楽器ですから、話はとてもシンプルで、強く叩けば大きな音が、静かにそっと叩けば小さな音が出ます。

このことに着目した彼は、弦をはじくのではなく、叩けばよいのではないか、と考えました。そして、叩くのであれば、爪ではなくてハンマーがよかろうと思い、ハンマーを発音機構に組み入れて、鍵盤を押すと瞬間的にハンマーが弦を叩く仕組みを開発すればよいのではないか、と気づいたのです。

この着眼に従って、苦労の末にクリストフォリさまの開発したのが、鍵盤を押すと反対側のジャックがあがるところまではチェンバロと同じですが、その次にジャックが二段階にわたってハンマーのレヴァーに作用し、最後にハンマーが跳ね上がって弦を叩く、というこれまでになかった仕組みでした。

これこそが、ハンマー・アクション機構と呼ばれるピアノの根幹となる発音機構です。もっとも、彼以前にも、この打楽器応用原理に着眼した製作者がいたことはいたようです。

ともあれ、クリストフォリさまが発明した新しい鍵盤楽器はこのハンマー・アクション機構によるもので、指が鍵盤を押す力の強弱がそのままハンマーが弦を叩く強さに反映され、弱音=ピアノも強音=フォルテも自在に出すことができました。

そのことから、イタリア語で「弱い音と強い音の出るチェンバロ」という意味の「クラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ」と呼ばれたこの楽器が、現在のピアノの前身にあたります。「クラヴィ」とは鍵盤。「ピアノ」というのはこの長い楽器名の短称なのです。

この画期的な新楽器の普及には時間がかかりましたが、モーツァルトは生涯の途中から、ベートーヴェンは音楽の稽古を始めた最初からこれを弾き、この楽器のために新約聖書にもなぞらえられる32曲のピアノ・ソナタも書きました。

こうして、クリストフォリさまの大発明のおかげで、わたくしたちは現在、弾くにせよ、聴くにせよ、ピアノを自在に楽しむことができるのですから、まことにありがたいことです。

クリストフォリさまオリジナルの1720年製のピアノが、ニューヨークのメトロポリタン美術館に所蔵されていて、これが現存最古のピアノ、とされる楽器です。

その、あまりにも貴重な歴史的ピアノで、スカルラッティのソナタが奏でられている映像がございました。

ピアノの発明者、バルトロメオ・クリストフォリさまの366歳のお誕生日に、どうぞ、この名匠の手になる現存最古のピアノの音をお聴きくださいませ。演奏は、Dongsok Shin さまです。

(459) Cristofori Piano: Sonata K.9 by Domenico Scarlatti - YouTube

                                       2021年5月4日記