昔から木瓜が好きでした。でも、生家の庭にあった木瓜は建て替えの際に延命できませんでした。すると、この睦月半ば、近くのスーパーの生花コーナーに木瓜の鉢が並んだのを見つけ、あっと声を上げました。小さな鉢ですのに花芽がよくついていて、もう開花しているものもかなりありました。
 うちに連れ帰りたいという激しい誘惑にかられましたが、お世話のうまくないわが身を鑑みてぐっと我慢し、見なかったことにしたのですが、次に見かけたときにはその多くがお嫁入してしまっていて、残りが数鉢となっているのに焦り、紅か白かと迷った末に、紅のお花がつく「夢絵巻」という品種の最後の一鉢を辛うじて手に入れました。大切に持ち帰り、毎日可能な限りお日様に当て、注意深く量をコントロールしてお水を差しあげておりましたのですが、なかなか、花芽が膨らみません。すると、次にスーパーに参りますと、残してきた白の「ニイパリス」なる品種の花芽が先に膨らんできたので、あわててそちらもうちの子になってもらい、紅白二鉢とも、慈しんでおりましたところ、やはり、白が先に開花いたしました。
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 七部咲きとなった1月30日、ミューザ川崎シンフォニーホールで、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲と、そのヴァイオリン協奏曲をベートーヴェン自身がピアノ協奏曲に編曲した「第6番」なる、ニ長調のピアノ協奏曲を堂々と並べた、世にも珍しいコンサートを拝聴いたしました。
 指揮は、若手の熊倉優さん、オーケストラは東京交響楽団。ヴァイオリン協奏曲のソリストは、現在オランダで活躍する米元響子さん、ピアノ版のソリストは、東京藝術大学、ベルリン芸術大学に学び、現在フランクフルト音楽・舞台芸術大学で歴史的奏法の研究に取り組む北村朋幹さん。
 両曲は出だしのテンポからして異なり、ピアノ版のソロには左手パートが新しくつくりあげられたばかりではなく、右手の受け持つオリジナル・パートもずいぶんと変化を加えられ、部分的なオーケストレーションも違うので、同じ曲を二度聴かされる、という印象はまったくありません。最大の聴きどころは、ピアノ版の第1楽章カデンツァです。ベートーヴェン本人の書いたこのカデンツァは、後半で、ピアノがティンパニとユニークな対話を繰り広げるのです。
 ソリストはお二人とも見事な演奏でしたが、ことに、北村さんを拝聴したときに、Beethovenがなぜこの名作を敢えてピアノ版に編曲したのか、ヴァイオリン協奏曲をピアノ協奏曲に移すというのがどういうことなのか、少し、見えたような気がいたしました。直接の作曲動機が、出版社クレメンティからの楽譜販売利益目当ての提案であったにしろ、Beethoven自身も、この仕事に作曲家としての野心を感じたからこそ、手掛けたに違いありません。おかげさまで、旋律楽器を万能楽器に移す、飛躍度の大きさがいかに並々ならぬものであるか、でも、根幹が一つゆえに、どちらも大きな花が咲いたことを、目の当たりに実感させていただくことができました。
 白の「ニイパリス」に先を越された紅の木瓜「夢絵巻」の花芽もかなり膨らんでおります。
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 きっと数日中に開花するでしょう。紅白の木瓜を一度に楽しめる日ももうすぐです。
                                     2021年1月31日記