連作ピアノ小品集の屈指の銘品、ロベルト・シューマンの『子どもの情景』は、全曲中最も有名な『トロイメライ』を中央の第7曲として、全13曲が自然な流れで美しく構成されています。子どもたちを見知らぬ国へやさしく誘う第1曲に始まり、珍しいお話を目を大きく見開かせる子ども、鬼ごっこに興じる子ども、甘えておねだりをする子ども、おねだりが叶って幸せいっぱいの子ども、重大事件をご注進する子ども、夢見る子ども、炉端で憩う子ども、木馬の騎士になったつもりの子ども、思いつめた様子の子ども、おどかしごっこに興じる子ども、遊び疲れて瞼の重くなった子ども、を描いたのちに、それをそっと見守り、
「さあ、お話はおしまいだよ」静かに幕を引く詩人。
 子ども用のお稽古曲ではなく、詩人シューマンが童心に還って、子どもの目線で子ども時代を回顧して書き、それを詩人としての彼の目線で結んだ珠玉の小品集です。
 シューマン以外の誰にもこのような作品は書けないでしょう。
 これを書いた1838年、彼はまだ独身でした。しかし、クララとのいばらの恋愛中で、「君を思ってどんなにたくさんの夢想をしたことか、それらが形になって、こんなものができたよ」
 と言っています。翌年出版されると、この曲集は、リストの長女ブランディーヌを大喜びさせました。  
 リストはシューマンより1つ年下ですが、もうお父さんになっていてたのです。3歳のブランディーヌは父リストにこれを弾いてもらうのが大好きで、特に第1曲「見知らぬ国々」を愛してやみませんでした。
 リストからシューマンへの手紙には、こう書かれています。
この曲は娘を夢中にさせますし、またそれ以上に私もこの曲に夢中なのです。というわけで私は、しばしば第1曲を20回も弾かされて、ちっとも先に進みません。」 
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 その名曲『子どもの情景』を、東京フィルハーモニー交響楽団の首席指揮者アンドレア・バッティストーニさんが、オーケストラ組曲に編曲され、今月の同フィルの定期公演で初演されました。
 昨晩、そのうちのサントリーホール公演をお聴きしてまいりました。
 曲の性格とテクスチュアに緻密に配慮され、楽器法を駆使して、たった2段のピアノ譜からオーケストラ譜を起こされた手腕はお見事なものでした。
 ピアノ独奏にあまりにも馴染んでしまっているがゆえに、別もののように聴こえる曲も中にはございましたが、マエストロ・バッティの繊細な感性は各曲に新たな命を与えていました。
 ことに、弦楽器にミュートを装着させて、美しいピアニッシモで紡いだ最後の2曲が胸に響きました。
 後半は、「子ども」のキーワード繋がりだと思いますが、ドイツの民謡詩集『少年の不思議な角笛』から終楽章のテキストを採ったマーラーの交響曲第4番でした。
 ソプラノ独唱は、髙橋唯さん。
 わたくしはこの方の『ルチア』の名演をよく覚えております。
 昨晩は、高い音域は良く聴こえましたが、歌い出しのフレーズも不明瞭で中音域がやや聴きとりにくかったように思いました。
                                  2026年5月14日記