本日1月21日は、小平楽友サークル講座の開催日でした。今期はずっと、2025年/26年が記念年となる作曲家ゆかりの作品を採り上げてまいりまして、今回は、6日後の1月27日に生誕270ねんとなるモーツァルトのオペラ『後宮からの逃走』を皆で楽しく鑑賞いたしました。
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 モーツァルトは1781年5月から、ウィーンでフリーランスの音楽家としての第一歩を踏み出したわけですが、ちょうどその頃、ドイツ語文化の振興にことのほか熱心なオーストリア皇帝ヨーゼフ二世は、ウィーンの二つの宮廷劇場、ケルントナートーア劇場とブルク劇場のうちの後者をドイツ語オペラや戯曲の専門劇場とすることに決め、それまで興行師任せだった劇場の運営も皇帝直属の劇場監督が当たるように組織改編したところでした。

ある日、その劇場監督のオルシーニ=ローゼンベルク伯爵からの依頼により、モーツァルトは、ドイツ語台本のオペラを書くことになります。

それまでウィーンで上演されていたオペラと言えば、イタリア輸入のイタリア語オペラがほとんどでしたので、モーツァルトは驚きながらも皇帝のドイツ語文化振興政策におおいに賛同し、喜び勇んでこの話を引き受けたのです。

こうして彼が書き始めたのが3幕オペラ『後宮からの誘拐』でした。

原作はブレッツナーという作家が前年に発表したドイツ語の戯曲でした。その戯曲をもとに台本作者のゴットリープ・シュテファニーが台本を作成したわけですが、現在のように著作権を保護する法律など未整備の時代でしたので、シュテファニーは原作者に無断で原作を好き勝手に改作していました。

さすがに、シュテファニーはあとでブレッツナーから激しい抗議を受けています。
 その『後宮からの逃走』とはこんなお話です。

■登場人物

太守セリム(セリフのみの役)

ベルモンテ、スペインの貴族(テノール)

ペドリッロ、ベルモンテの召使(テノール)

コンスタンツェ、ベルモンテの婚約者(ソプラノ)

ブロンデ、コンスタンツェのイギリス人の召使(ソプラノ)

オスミン、太守の監督官(バス)

イェニチェリ、民衆の合唱

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 歌わないセリムに就いては「この方はどういう方ですか」 とのご質問があり、芸達者な俳優でいらっしゃることをご説明いたしました。求愛してもなびいてくれないコンスタンツェに、絶対に手荒な真似はせず、彼女の方から身をまかせてくれるのを待っている、ジェントルマンなセリムを、名優マルクス・ヨーンさんは憂いをもって演じられました。 

■あらすじ

 オペラの舞台は18世紀の地中海沿岸の、おそらくトルコをモデルとした、とある国。地方長官セリムは、自身の後宮に、海賊から奴隷として買い取った美しい女性コンスタンツェとその侍女ブロンデを住まわせて、家来のオスミンに監視させています。セリムはコンスタンツェに心を奪われ、自分のものになって欲しいと切望していますが、そこは身分のある立場、手荒なことはしたくないので、彼女が自分から身をまかせてくれるのを待っています。

家来のオスミンはオスミンで、ブロンデを手に入れたいと思っています。

そこへ、スペイン貴族ベルモンテが召使いのペドリッロとともに、海賊にさらわれた婚約者コンスタンツェを探しにやってきました。ペドリッロのほうは、コンスタンツェの侍女ブロンデと恋仲なのです。

この後宮に女性たちが囚われているに違いないと確信した二人は知恵を絞ってそれぞれの恋人とめぐりあい、彼女たちを救出しようとします。

ところが、オスミンに邪魔をされてつかまってしまい、あわや処刑されそうになります。そのとき、すべてを知ったセリムが寛大な慈悲を示して4人を解放してくれたので、2組のカップルは無事後宮をあとにすることができました。

 

 6人の登場人物のうちのセリムだけは台詞のみなので歌うことはありませんが、2組のカップルはどちらも優れたソプラノとテノールでなければならず、それに加えて、オスミン役として低音のよく響く存在感のあるバス歌手を必要とし、それらのキャラクターの重唱が多いため、上手な歌手集めが至難です。そのため、上演機会が多くはないのですが、幸い、2002524日 フィレンツェ、ベルゴーラ劇場で上演されたプロダクションのライヴ映像がございましたので、本日はそれを鑑賞いたしました。
 ■鑑賞DVD:モーツァルト『後宮からの逃走』

演出:アイケ・グラムス ドイツの指揮者、演出家

指揮:ズービン・メータ 1936年インドのボンベイ生まれの指揮者

フィレンツェ5月音楽祭管弦楽団&合唱団

太守セリム  :マルクス・ヨーン

コンスタンツェ:エヴァ・メイ

ブロンテ   :パトリーツィア・チョーフィ

ベルモンテ  :ライナー・トロスト

ペドリッロ  :メフルザード・モンタゼーリ

オスミン   :クルト・リドゥル

収録:2002524日 フィレンツェ、ベルゴーラ劇場 ライヴ収録

 

 コンスタンツェを歌ったイタリアのソプラノ、エヴァ・メイの高音もらくらく伸ばすことができ、コロコロと転がすテクニックにも優れた絶品の歌唱と美貌、後宮の番人オスミンに扮したクルト・リドゥルの憎まれ役の圧巻の演技と迫力あるバス、おきゃんなブロンテ像を生き生きと彫琢したソプラノのパトリーツィア・チョーフィ、などなど、皆様から温かな共感をいただくことができました。
 ことに、結末の、虐げられ不当な扱いを受けたとしても憎悪や遺恨をもって報いてはならない、赦しをもって対応することで、憎悪、恨みの連鎖を断ち切るべきだ、といって、2組のカップルを快く国元へ返してあげた太守セリムへの大きな共感をいただいたことは、わたくし自身に、とても新鮮な感覚と喜びをもたらしました。
 今の世につながる、貴重なご感想でした。  
 ぜひ、A国大統領とR国大統領にご鑑賞いただきたいオペラです。
                          2026年1月21日記