【プログラム】
ルクレール: 2つのヴァイオリンのためのソナタ ホ短調 op. 3-5
バツェヴィチ: 2つのヴァイオリンのための組曲
プロコフィエフ: 2つのヴァイオリンのためのソナタ ハ長調 op. 56
イザイ: 2つのヴァイオリンのためのソナタ イ短調
曲により、第一、第二を入れ替えながら、4人の個性の異なる作曲家たちの眼の眩むような、二重奏の世界が繰り広げられました。
お二人の音色の違いが、各曲の奥行を深めていました。
ルーマニア生まれのマルティン先生は、エネスクの系譜に連なる名ヴァイオリニスト。毛利さんはドイツのクロンベルク・アカデミーに留学中、マルティン先生から貴重な教えを受けられたそうです。今回の10周年記念リサイタル・シリーズの初回は、是非、尊敬する師匠との共演を、との強い願いから、このヴァイオリン二重奏プログラムが実現したとか…。
その師弟愛の反映されたお二人の演奏は、ときに、火花も散り、ときに和みに満ちて、しっとりと両ヴァイオリンが絡み合いました。たった2挺のヴァイオリンだけで、こんなにも多種多様な音楽表現が可能であることに、改めてこの楽器のポテンシャルをみる思いです。
マルティン先生は、仙台国際音楽コンクールの審査員でいらっしゃいましたので、終演後におめにかかり、少し、コンクールのお話をうかがいました。
「わたくしも仙台のコンクールの取材に行っておりまして、毎日、先生をお見掛けしておりました。第一位が出なくて、ちょっと残念でございましたね」
と申し上げると、
「たしかにね。でも、それは、世界のどこのコンクールでも、時々はあることですよ。コンクールの水準維持のために、仕方のないことよ。私たち審査員は、ファイナルだけではなくて、コンテスタントのすべての審査段階を聴いて総合的に判断します。その結果、どの審査段階、どのコンチェルトもむらなく、どれも高いレベルで弾けていた人が残念ながらいなかったということなのですよ。でも、彼らもこの先、きっと成長するでしょう」
と優しく、しかし真剣におっしゃられました。
若いヴァイオリニストたちへの温かな眼差しにみちたお言葉に、さすが、毛利さんが「師匠、師匠」と慕われるだけの、度量溢れる先生だと感じ入りました。
2025年6月11日記
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