本日の小平楽友サークル講座では、前半に、ラヴェルのファンタジー・リリック・オペラ『子どもと魔法』を鑑賞し、後半では『ボレロ』がどのような構成になっているのかお話ししてから、チェリビダッケの指揮で『ボレロ』を楽しみました。

 『子どもと魔法』は、1987年、イギリスのグラインドボーン音楽祭での上演映像です。
 主人公の少年(メゾソプラノ)は、ママから「ちゃんと勉強しなさい」といわれますが、一向に身が入らず怠けてしまい、罰として、砂糖抜き紅茶とバターなしパンをおやつに与えられます。
 一人になった少年は癇癪を起し、紅茶ポットとカップを床に投げつけ、かごの中のリスをいじめ、大時計を壊し、羊飼いの模様の壁紙を引きちぎり、王女の物語の絵本も、算数の教科書も破り踏みつけます。すると、ポットとカップ(写真)、壁紙の模様の羊飼い、絵本の王女、教科書の中の老人などが次々と現れ、少年を懲らしめます。
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 皆が去り日が暮れて、疲れて寒くなった少年が暖炉の火にあたろうとすると、火も、「よい子は暖めてあげるけど、悪い子は焼いてしまうよ」。
 夜の庭に出ると、彼が昼間いじめた、樹木、猫、カエル、トンポ、こうもりが次々と現れ彼のせいで、悲しい思いをしていると、訴えます。皆興奮して少年を責めるうち大騒ぎになり、1匹のリスが足に怪我をします。それをみた子供は自分のハンカチでリスの傷口を縛って介抱し、そのまま疲れて倒れてしまいました。
 動物たちは静まり「彼は傷の手当てをした」と口々に呟いて家のほうへ引きずっていき、家の中に「ママ」と声掛けし
「彼はおりこうです。非常に優しくて、良い子です」と歌いながら去っていきました。
 少年が正気に返ると、母親が彼を心配してのぞき込んでいました。
 「ママ!!」
 充分反省した少年が叫んで幕となります。

 ラヴェルは、作曲を引き受けたものの、途中、『ヴァイオリンとチェロのためのソナタ』の作曲もしなければならなかったために中断し、そのまま再開できずにいました。一旦、神棚に上げてしまうとなかなか下ろせないのは天才ラヴェルも同じなのだ、とちょっと意を強くする思いです。
 モンテカルロ劇場の支配人の説得で、ようやく仕事を再開。取り掛かれば強い集中力を発揮して一気に仕上げていったそうです。初演は1925年3月21日。指揮はヴィクトール・デ・サーバタ。

 本日鑑賞したグラインドボーン音楽祭の1987年プロダクションは、夢を掻き立て想像力を刺激する素敵な舞台劇でした。擬人化された、ポット、カップ、大時計、樹木などに扮したダンサーたちの動きもお見事なら、猫のカップルのバレエ・ダンサーのしなやかなバレエも魅惑的でした。
 教訓的なお話であるにもかかわらずお説教感がないのも嬉しく、登場キャラクターの面白さと、何よりもラヴェルのシンプルで美しい音楽に酔うことができました。
                               2025年5月7日記