倉本朋幸さんの台本・演出の、劇団オーストラ・マコンドー公演『影のない女』を、昨日、吉祥寺シアターで拝見いたしました。原作はもちろん、フーゴー・フォン・ホーフマンスタール&リヒャルト・シュトラウスの黄金コンビによる1919年初演のオペラですが、それを踏まえて倉本さんが自由に起こした日本語台本による、迫力にみちた演劇仕立ての舞台でした。
 極端な読み替えはなく、原作の設定は高次に昇華されて踏襲され、時代も場面も人物像も、みごとに普遍化されていて、どのようにでも、なんら抵抗なく自然に解釈できるのにまず好感を覚えました。
表 高画質のコピー

 出演者のみなさま、活舌もよく、10公演中の9公演目であったせいもあるのでしょうが、長台詞もまったくよどみがなく、しかも役になり切って気持ちがこもります。絶叫調の台詞も、聴き苦しさとは無縁です。
  動きもスムースで、かなりの身体性を要求される演技も難なく鮮やかにこなされました。これはよほどのお稽古を積まれたのではないでしょうか。
 もっとも面白かったのは、皇帝と、バラクの妻に影役のキャストをつけるアイディアでした。そのお二人の影役のお上手なことと言ったら、床にあおむけに寝たまま本人の動きにささささっと付き従って、しかも邪魔にならないように足のfootworkを自在にこなして寄り添う素早い動きにはほとほと感心いたしました。
 物語の解釈はほぼ原作通りと申しますか、むしろ、原作よりも、また、種種のオペラ・プロダクションよりも、わかりやすく解きほぐされていました。
 東洋の島々を治める皇帝の妻は、霊界の王の娘で「影のない女」。影とは、妊娠能力の暗喩。皇后が影を持てない報いとして、皇帝がもうすぐ石にされてしまうというので、皇后は乳母に付き添われて人間界に影を贖いに出掛け、貧しい染物屋バラクの妻から影を買おうとします。バラクの妻は、皇后と乳母が3日間、同家で働くことを条件に、影を譲ろうと言いますが、この間に皇后は、バラク夫妻の愛の葛藤をまのあたりにし、自分のエゴのために影を手に入れるのを断念します。
 結果、皇帝はいったん石にされてしまいましたが、皇后の他者を思いやる心の美しさによって、人間に戻ることができ、2組の夫婦はそれぞれ絆をふかめます。
 最後の場面で、これは卓抜な解釈だ、と思ったのは、何と、影を持てぬ女であったはずの皇后の背後の床に、ちゃんと影役があおむけに寝て付き従っていて、それがまあ、乳母役の役者さんだったことでした。
 そうなんです。これまで、ことごとく皇后と行動を共にしてきたというよりも、召使でありながらリーダー・シップをとってきた乳母こそ、なんのことはない、皇后の影であったというオチ。うまい!!
 あっと叫びたいほど、新鮮な着想だと思いました。

 皇帝:寺中友将さん
 皇后:清水みさとさん
 乳母:山井祥子さん
 
 そのほか、朱里さん、櫻井竜彦さん、小林風花さん、竹森まりあさん、千葉恵太さん、中野匡人さん、三宅里沙さんのご出演でした。
                                    2025年3月31日記