3月21日夕刻、ミューザ川崎シンフォニーホールで、サー・アンドラーシュ・シフ&カペラ・アンドレア・バルカ J.S.バッハのピアノ協奏曲 6曲演奏会を拝聴いたしました。カペラ・アンドレア・バルカと言うのは、かつて1999年から2005年にかけてのザルツブルク、モーツァルト音楽祭のために、シフがお一人お一人に声掛けして集まってもらった、スーパー・ソリストたちによる室内楽オーケストラです。
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 今回シフは彼らと協演して、バッハのピアノ協奏曲、という呼び方は語弊があるかも知れませんが、それを6曲、演奏なさいました。
 ヴァイオリン協奏曲第2番からの編曲である第3番、失われたヴァイオリン協奏曲ト短調からの編曲である第5番、ヴァイオリン協奏曲第1番からの編曲である第7番、原曲不明の第2番、第4番、失われたオルガン狂騒曲からの編曲と推定される第1番を、実に闊達にお弾きになりました。
 これは、バッハ自身が、旋律楽器のヴァイオリンのための協奏曲を鍵盤楽器用になおすにあたり、左手を遊ばせることなく、対位法の粋を尽くして様々な動きを持たせ、オブリガートを歌わせた編曲の見事さもさることながら、その妙味をこれでもか、これでもかと、もう、乗りに乗って楽し気に伝えるサー・シフの至芸の極致ともうしましょうか、こんなに面白い演奏は滅多に聴けるものではございません。
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 サー・シフは、大バッハが何を意図して旋律楽器用の協奏曲に移したか、大バッハその人であるかのごとくにわかっていらして、それを十全に表現開花されたのです。
 このような演奏であるならば「ピアノでバッハを弾く」ことに懐疑的な考えを抱くのはナンセンスというものでした。
 アンコールに、ブランデンブルク協奏曲第5番第1楽章。奔放自在で生命力にあふれる、たぶんサー・シフ・オリジナルのおみごとなカデンツォ付きでした。
                               2025年3月23日記