昨晩(3月15日)、サントリーホールで、読売日本交響楽団 ヴァイグレ指揮 演奏会形式 ベルク『ヴォツェック』を拝聴いたしました。各幕30分前後の全3幕を休憩なしの一気上演、約95分の緊張感に貫かれた公演は、一瞬も目の離せない名舞台でした。
 ヴァイグレのテンポはきびきびとして、強い推進力でドラマを進めます。
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 下手と上手から、入れ代わり立ち代わり交互に出てくる歌手たちは譜面台を置いていますが、譜面に頼る人は一人もいません。
 タイトルロールは、当初、マティアス・ゲルネさんが予定されていましたが、サイモン・キーンリーサイドさんに替わりました。この方は、風采のあがらない床屋上がりの一兵卒にぴったりなキャラクターでした。演奏会形式ではありますが、足を落ち着かなく後ろへ曲げたり、しゃべりながらお鼻をこすったりと、細かい演技もまじえ、卑屈にぼそぼそと話すかと思えば、時にヒステリックに意味不明な発言をするヴォツェックになりきっておられました。
 まさかそれがこの方の地ではないでしょうから、演奏会形式という制約の中で、これほど見事なお役作りをなさるとは、芸の力は大したものだと思いました。
 それに対して、朗々としたテノールで会場を圧したのが大尉役シュナイダーさんと、鼓手長役のブルンスさん。特に大尉のシュナイダーさんがきらきらと輝くようなテノールの大音量で、哀れなヴォツェックに小言を言う冒頭場面はお見事でした。この方は、ウィーン少年合唱団のご出身だそうです。
  ブルンスさんは、BCJ、『マタイ受難曲』のエヴァンゲリストなどでたびたび拝聴していますが、バッハの宗教曲とはまた別の一面をみせてくださいました。
 マリーのアリソン・オークスさんはイギリス出身。このお役としては優しいお声かと思いましたが、後になるに従って強靭さも加えていきました。音量もゆたかで、無尽蔵なお声の伸びにはため息を誘われました。
 医者のシュトルックマンさんはじめ、他の方がたもすべて好演。
 よくぞここまで、歌手が揃ったものと感心いたしました。
 最後に登場した10人の少年たちは、子どもの無邪気さと残酷さをよく表現していました。
 子どもの一人はヴォツェックの子です。他の子たちは゜おまえのかあさんが沼で亡くなったぞ」と言って駆け出していきますが、ヴォツェックの子は、母親も、そして父親も亡くなったというのに、それがよくわからず、一人残って「ホップ、ホップ、ホップ」と叫びます。やりきれない幕切れです。
 4管編成の読響の威力たるや凄まじいがありました。しかも、力で押すのではなく、パート間の緊密な連携により、きめ細かい表現がなされていました。
 
■キャスト
指揮=セバスティアン・ヴァイグレ(常任指揮者)
ヴォツェック=サイモン・キーンリーサイド(バリトン)
鼓手長=ベンヤミン・ブルンス(テノール)
アンドレス=伊藤達人(テノール)
大尉=イェルク・シュナイダー(テノール)
医者=ファルク・シュトルックマン(バス)
マリー=アリソン・オークス(ソプラノ)
第一の徒弟職人=加藤宏隆(バス)
第二の徒弟職人=萩原潤(バリトン)
白痴=大槻孝志(テノール)
マルグレート=杉山由紀(メゾ・ソプラノ)
兵士・若者=榛葉薫人(テノール/新国立劇場合唱団)

合唱=新国立劇場合唱団
   TOKYO FM少年合唱団
音楽総合助手・合唱指揮=冨平恭平
                               2025年3月16日記