新国立劇場では、二つのオペラを組み合わせた「ダブルビル」シリーズの第一弾として、2019年4月に、ツェムリンスキー作曲『フィレンツェの悲劇』とプッチーニ作曲『ジャンニ・スキッキ』を、同じ粟國淳演出で上演しましたが、2025年2月公演でこれが再演されました。
本日はこれを拝見してまいりました。
指揮は、沼尻竜典、オーケストラは東京交響楽団です。
前半は、オスカー・ワイルドの戯曲を原作として、19~20世紀への転換期のウィーンで活躍したツェムリンスキーの『フィレンツェの悲劇』。登場人物は3人のみの、鬼気迫る心理劇です。
さほど上演回数の多くはないオペラですが、2004年4月15日 にサントリーホールで、沼尻竜典さんの指揮、栗林朋子さんのビアンカ、吉田浩之さんのグィード、ラルフ・ルーカスさんのシモーネによる、日本フィルの演奏会形式の公演を拝見して以来、この作品の虜となっておりましたわたくしは、新国立劇場の2019年公演もわくわくしながら拝見し、今回も楽しみにしておりました。
3人の登場人物が皆、腹に一物を抱えなから、何食わぬ顔で相手を追い詰めていくところが何ともすさまじくて、オスカー・ワイルドの天才につくづく感嘆いたします。
フィレンツェの織物商人シモーネが帰宅してみると、妻ビアンカが若い貴公子を家に引き入れていました。「親戚殿に違いあるまい、ようこそ、お越しを」と、とぼけてきくと、相手はフィレンツェ大公の息子グイードと名乗ります。
シモーネは、彼の来宅を「なんと光栄なことでございましょう」と、おおげさに驚き入りながら、織物やガウン、式服等を次々に持ち出して、グィードに売りつけます。グィードは鷹揚にすべての購入を承知し、シモーネの言い値以上を支払おうと言いますが、隙あらば、ビアンカのそばへ行こうとします。シモーネは、全ての品を大枚で買ってくれた相手を褒め殺しながら、妻だけは売り物ではない、と釘を刺し、妻を盗もうとする男には容赦しない、とすごんで、戯れの決闘を挑みます。
シモーネは、彼の来宅を「なんと光栄なことでございましょう」と、おおげさに驚き入りながら、織物やガウン、式服等を次々に持ち出して、グィードに売りつけます。グィードは鷹揚にすべての購入を承知し、シモーネの言い値以上を支払おうと言いますが、隙あらば、ビアンカのそばへ行こうとします。シモーネは、全ての品を大枚で買ってくれた相手を褒め殺しながら、妻だけは売り物ではない、と釘を刺し、妻を盗もうとする男には容赦しない、とすごんで、戯れの決闘を挑みます。
「次はおまえの番だ」
夫が近づいてきたとき、ビアンカはうっとりとした陶酔の表情を浮かべて言います。
「知らなかったわ。あんたがこんなに強かったなんて」
するとシモーネも言います。
「知らなかったよ。おまえがこんなに綺麗だったなんて」
シモーネが妻を抱き寄せて幕、、、、となりますが、何しろタイトルは『フィレンツェの悲劇』。
ビアンカの運命はおそらく・・・・・。
この凄まじい心理対決ドラマを盛り上げるのが、ツェムリンスキーの官能的で色彩感豊かなオーケストラ音楽です。これ以上のオーケストラ・ワークは望めません。
シモーネのバリトン、トーマス・ヨハネスマイヤーさんの声と演技のお見事なこと!
グィードはカナダのテノール、デヴィット・ボメロイさん、ビアンカはドイツのソプラノ、ナンシー・ヴァイスバッハさん。この御二人も結構でした。
後半の『ジャンに・スキッキ』は、スキッキ役のピエトロ・スパニョーリさんのみ、海外招聘歌手で、亡くなった金持ちブオーゾの親戚一同や公証人、立会人、スキッキの娘ラウレッタは全員日本勢。
ところが、親戚のうち3名までもが、今、猛威を振るうインフルエンザに倒れ、カバーの歌手が歌われました。
張りとボリュームのある歌唱でひときわ目立ったのは、ラウレッタの砂田愛梨さん。
昨年11月の日生劇場『連隊の娘』のタイトルロールを歌われたときにも、びっくりいたしましたが、今回も好演。
これが新国立劇場デビューです。
それから、親戚の中の長老、これもお名前がシモーネですが、この役に扮されていたのが、何と、先月、「さまよえるオランダ人」のオランダ人役を、カバーだったのに、世界一のオランダ人役のニキティン降板により、ほぼ全日歌いあげて劇場の窮地を救った、河野鉄平さんだったのです。『オランダ人』の公演期間、『ジャンニ・スキッキ』の稽古がかぶっていたそうで、本番が終わるや、稽古に参加するというご奮闘ぶりだったということです。ご立派です。
2025年2月4日記
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