昨晩、バッハ・コレギウム・ジャパンの第164回定期演奏会でバッハのカンタータと、メンデルスゾーンの『賛歌』をお聴きしたことは昨日の記事の通りですが、演奏会プログラムの巻頭言に、BCJ創設指揮者の鈴木雅明さんが、面白い話題を書いておられたのでご紹介いたします。  
 鈴木さんの玉稿によれば、メンデルスゾーンはあれほどの天才作曲家であったのに、38歳で亡くなるとすぐ、ユダヤ人であるがゆえの偏見にさらされて作品が不当評価されることになり、ユダヤ人嫌いのワーグナーも、「音楽におけるユダヤ性」という論文の中で、「メンデルスゾーンの作品は、深く心に訴えかけるものもなければ、高い精神性も感じられない」とまで貶めたそうです。ワーグナーはメンデルスゾーンより4歳年下です。
 ワーグナーによるメンデルスゾーン攻撃の延長線上に、ヒトラーのナチス・ドイツによるメンデルスゾーンの大排斥がございます。ライプツィヒ音楽院に合ったメンデルスゾーンの胸像は、ナチスによって破壊されて撤去され、彼の音楽の演奏は禁じられ、擁護する者は捕らえられました。
 狂気としか言いようのない、残念なことです。

 ところで、鈴木さんは少年時代からピアノを習い、中学生ともなると、通われている教会で結婚式のある時は、オルガン演奏を頼まれておられたそうですが、その際、新婦の入場にはワーグナー『ローエングリン』の「婚礼の合唱」をリクエストされました。
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 そして、退場には必ず、メンデルスゾーンの劇音楽『真夏の夜の夢』の中の「結婚行進曲」をお願いされて、いつもこの両曲を弾いておいでだったということです。
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 なんとも皮肉な、ワーグナーとメンデルスゾーンの組み合わせだったわけですが、何もご存じない新郎新婦はどちらの曲も幸せな気分でお聴きだったようだ、というのが、このコラムの一つのトピックでした。
 結婚式では、しっとりとして聖なる雰囲気もあるワーグナー、披露宴では、明るく華やかなメンデルスゾーン、というイメージもございますように、世の既婚者の皆様の8~9割以上?の方々も、この2曲のお世話になられたことでしょう。
 しかしながら、背景を知ってみれば、まことに、複雑な気分に誘われます。
 今年は、小平楽友サークル講座でワーグナー『ニーベングの指環』登攀中ですから、ワーグナーはどんどん、嫌いではなくなってきておりますが、やはり、メンデルスゾーンへの蔑視だけは情けなく思われ、前記の御言葉を撤回していただきたいと、強く思います。
                              2024年11月1日記