ドミトリー・ショスタコーヴィチは革命前の1906年の生まれなので、当時のロシア暦の9月12日が誕生日ですが、1917年の革命後は、あのお国もグレゴリオ暦に改まりまして、その流儀で申しますと、9月25日生まれとなります。つまり本日が、彼の出生から118年後のお誕生日当日です。
 偶然か、この日を意識されて選ばれたかは存じませんが、昨晩は、古典四重奏団の「ムズカシイはおもしろい!!』ショスタコーヴィチの時代 2024 その3のレクチャー付きコンサートが、ルーテル市ヶ谷で開かれました。
 今回は、第6番、第7番、第8番の3曲。最初に、チェロの田崎端博さんの、丁寧かつ明晰なレクチャーがありますので、これから聴く作品のどんなところによく耳を傾けたらよいのかがわかり、前向きな興味をもって聴くことができるのが、このシリーズのありがたいところです。
 また、第一ヴァイオリンの川原千真さんご執筆のプログラム・ノートがたいへんな値打ちもので、作品の成立背景と、曲のアナリーゼが実にバランスよく、流麗な文章で綴られています。
 そしてもちろん、彼らの真摯な気迫に満ちた演奏は聴き手をぐいぐいと引き込んでいきます。
 わずか3年で破局した2番目の妻マルガリータとの、まだ蜜月だった結婚初期に作曲された第6番、マルガリータとの離婚後、今は亡き最初の妻ニーナを偲んで書き、ニーナに捧げた第7番、「ファシズムと戦争の犠牲者の想い出に」捧げる、とされ、自身のイニシャル「D-S(Es)-C-H」の音名化音型をメイン・モティーフとする第8番、いずれも、作曲家の足跡と心の淵を思いながら聴くことができました。
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 この写真が、45歳でがんのために亡くなった最初の妻ニーナとのツーショット。ニーナは科学者で、二人の子どものよき母でもありました。
 3曲のうちでは、やはり、
D-S(Es)-C-H」に始まる第8番の深さ、重さ、が胸に染み入りました。
 田崎さんが最後におっしゃったように、ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲は、吟味されぬき、厳選されぬいた最小限の音素材を極限まで無駄なく使って組み立てられていますから、それだけに、演奏者の表現力が問われます。
 そして、素材が少ないと、古典四重奏団の大きな特徴である暗譜演奏も、かえって難しい面があるのではないかと思うのですが、川原さん、花崎さん、三輪さん、田崎さん、凄まじい集中力で作品と向き合われ、惚れ惚れとするお見事な暗譜演奏を聴かせてくださいました。
 ありがとうございました。
                         2024年9月25日、ショスタコーヴィチのお誕生日に記