ユーゴースラヴィアのピアニスト、というよりも、1980年のショパン国際ピアノコンクールで予選から注目を集めながら本選進出を認められず、その結果に抗議した審査員のマルタ・アルゲリッチが「彼は天才よ!」の一言を残して辞任したというエピソードで名高い、イーヴォ・ポゴレリッチが今年も来日しました。
 1月27日夜にサントリーホールで開かれた東京公演を聴いてまいりました。直前の北京公演のときに、転んでひざを傷められたとかで、ステッキを持っての登場です。しかし、歩かれるのにステッキは必要なく、椅子に座るとき、立ち上がるとき、特に立ち上がるときに、ステッキの力を借りておられました。
 ◎プログラム
ショパン
前奏曲 嬰ハ短調 op.45
シューマン
交響的練習曲 op.13(遺作変奏付き)
シベリウス
悲しきワルツ op.44
シューベルト
楽興の時 D780 op.94
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 ショパンの嬰ハ短調の前奏曲は、1981年のデビュー・アルバム『ショパン・リサイタル』にも収録した曲、シューマンの《交響的練習曲》は1981年録音のセカンド・アルバムに収録した曲です。よほどこの2曲に思い入れがおありのようです。ただ、セカンド・アルバム収録の《交響的練習曲》には、遺作変奏5曲が入っていませんでしたが、今回のリサイタルではこの5曲が採り上げられました。これらを弾くか弾かないか、弾くとしたらどこに挿入するかは、ピアニストの判断に委ねられています。
 今回のポゴレリッチは、1曲目の《テーマ》のあとに、5曲を番号順に一括して入れる、という独自の解釈を示しました。
 それらを含めて、演奏はやはり彼独自の、ところどころで、大切な音符の音価を微妙に伸び縮みさせることの多いもので、ちょっと普通と違うとは感じましたが、不快な感じではありませんでした。以前ほどではないものの、全体にテンポは遅めで、《交響的練習曲》にたっぷり45分をかけました。
 アンコールはホ長調のノクターンop.62-2。
                                      2024年1月28日記