1月17の日の晩、亀井聖矢さんのリサイタルがサントリーホールで開かれました。亀井さんは2001年12月生まれ。ようやく22歳になったばかりの新進ピアニストです。2019年、日本音楽コンクール第1位となられ、2022年、ロン=ティボー国際音楽コンクールのピアノ部門に優勝され、評論家賞、聴衆賞も獲得されました。
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 わたくしは5年前に、彼がアリオン音楽賞を受賞されたときの授章式で初めてお聴きし、おおらかで自然体の、豪放磊落なピアズムをお持ちなことにびっくりいたしました。
 それから、ロン=ティボーの覇者となられ、あれよあれよという間に人気急上昇し、今日では、サントリーホールを満席にできるピアニストの一人となられました。
 今回のサントリーホール・リサイタルは、ショパンとリストがテーマでした。
 前半は、ショパンのワルツop.34の3曲、舟歌。リストの『ダンテを読みて』。
 この中では、リスト『ダンテを読みて』が突き抜けていました。  
 後半はさらに、彼の勉強ぶりがひたひたと伝わる、圧巻の2曲。 
 ショパン『ラ・チ・ダレム・ラ・マーノ変奏曲』op.2
    リスト『ベッリーニの「ノルマの思い出」』
 この2曲はどちらもオペラ由来の演奏会用ピースで、『ラ・チ・ダレム・ラ・マーノ』はモーツァルトの『ドン・ジョヴァンニ』から第2幕のドン・ジョヴァンニがツェルリーナを誘惑する『お手をどうぞ』を主題とする変奏曲です。
 実は、まだ8歳のクララ・ヴィークがこのテクニカルなピースを弾きこなして各地の演奏会で採り上げ、ドイツに、ポーランドの無名青年の名を広めた、クララのお手柄曲です。
 『ノルマ』のほうは、言うまでもなく、ベッリーニの同名オペラ由来ですが、技巧の度合いにおいては、『ラ・ダレム・ラ・マーノ』をしのぐ難曲です。
 リストはこれを、当時の女性ピアニストの第一人者で、クララより8歳年上のライバル、マリー・プレイエルに捧げています。マリーは、ショパンと縁の深いプレイエル・ピアノの社長の妻でしたが、リストとのロマンスもささやかれた、恋多き、美貌の女性でした。
 そんなことを思いながら、亀井さんの名演に浸りました。
 どちらも、超の付く難曲なので、2曲いっぺんに聴かせてくださるピアニストは滅多におられないのですが、このたびはその、嬉しい機会となりました。
 アンコールは、ショパンのマズルカop.59-1、リストのラ・カンパネッラ。
 カンパネッラは、同日の昼に聴いた、江口玲さんの演奏とは、かなり印象が違いましたが、どちらも名演でした。
                                2024年1月18日記