古典四重奏団のベートーヴェン全集に戻ります。一通り聴かせていただきまして、それぞれの味わいを堪能させていただきました。曲の名作度、でいえば、順位の付難い一連の傑作がございますし、古典四重奏団の演奏の完成度、燃焼度の高さに感じ入りました作品もいくつかございました。
 そのなかで、前述の二つの観点がもっとも高次にマッチした演奏は、もちろん主観ではございますが、第14番嬰ハ短調作品131であると感じました。
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 冒頭の深遠極まりないフーガ、このフーガ主題の水も漏らさぬ受け渡しがまず絶品と申せましょう。よほど、己の心をからにして、作品の高度な思索性によりそわなければ、これほど緊密な受け渡しができるものではないでしょう。思索は問いとして投げかけられ、答えはだされないまま、気分一新して第2楽章が始まります。ここでのロンド主題は澄んだ明るい音色で奏でられます。曲想も愉悦の気分ではありますが、いやいや、問いは解決されていないでしょう、とやんわり釘を差す第3楽章を経て入る第4楽章変奏曲では、チェロ、ヴィオラに支えられたやらわかな音色でカンタービレ楽想が紡がれます。6つの変奏はどれもまことに表情豊かに、まるで人間の語りのように能弁に奏でられています。
 第5楽章の躍動感、第6楽章アダージョの程よい冷却のあとに、いよいよ、これこそ古典四重奏団の真骨頂、力強く峻厳なフィナーレが渾身で聴き手に贈られます。  
 そのような次第で、作品131を古典四重奏団の白眉にあげさせていただきました。
                                2023年6月24日記