昨日拝受した、古典四重奏団のベートーヴェン弦楽四重奏曲全集を今日も聴き入っております。まず、ラズモフスキーの3曲を繰り返して聴き、曲としてはどれが一番好きか、演奏としてはどれにもっとも心惹かれるかを自分に問うておりますが、3曲ともベートーヴェンの多種多彩なアイディアの宝庫で、同じことをしている楽章は一つもなく、また、古典四重奏団の演奏がいずれの曲も深いバックグラウンドと音楽的経験値の積み上げを感じさせるものばかりのため、どこを聴いても好きで困ってしまいます。
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 しかし、しいていうなら、どうやらわたくしは1番の第3楽章にもっとも共感するようだ、ということをいまさらながら、発見いたしました。
 やり場のない、しかし、澄み切った哀しみをこれほどまでに音で表現することができるところに、作曲家と演奏家の底知れぬ人間力を感じます。古典四重奏団は、作曲家の心情に虚心に寄り添っているので、なおさらそれを感じることができます。
 この楽章の最後は第1ヴァイオリンのカデンツァになって、そのままフィナーレへとつながります。
 カデンツァは、ヴァイオリン協奏曲のカデンツァを思わせる崇高なもので、深刻な色調ではありますが、それが一転、解放を迎えると、あの屈託ないロシアの主題が始まるところも大好きです。音楽の起伏がまことにゆたかで、見事に息の合ったフィナーレにうっとりしております。
                                   2023年6月16日記