ロベルト・シューマン181068日、ドイツ中東部の鉱山都市ツヴィカウに教養ゆたかな出版商の末っ子として生まれました。ですので、もうすぐ、213歳のお誕生日がきます。6月という季節が呼ぶのか、このところ、彼のピアノ協奏曲に何かとご縁がございました。
 ひとつは、5月31日の晩に読売日本交響楽団の定期演奏会でこれを聴かせていただいたことでした。ソリストは、1942年ジョージア出身、モスクワ音楽院でゲンリヒ・ネイガウスとヤコブ・ザークからロシアン・ピアニズムの本流を受け継いだエリソ・ヴィルサラーゼ。指揮はドイツを拠点とする上岡敏之マエストロ。
 ヴィルサラーゼさんのソロは、強靭な打鍵、ずしりとした野太い音、曲がシューマンなのにおのずと発露するヴィルトゥオーゾの片鱗。オーケストラと微妙にずらすことによってくっきりと描かれるソロライン。などにこの方の個性が際立っていました。
 もうひとつのご縁は、『モストリークラシック』のリレー連載『傑作の履歴書』次号に、この協奏曲をとりあげよ、とのご依頼を受けて、ここ数週間この曲のさまざまな録音を聴きこんでまいり、本日ようやく脱稿し、「推薦ディスクを3タイトルあげよ」とのご下命にも悩みながらもなんとかお応えできたことでした。
 どんな事を書かせていただいたかは、同誌6月発売号をお待ちいただくとして、推薦ディスクの一つにあげた、リパッティ盤がYouTubeに上がっていることを発見いたしましたので、ぜひ、お聴きいただきたく思い、ご紹介いたします。
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すでに病(ホジキンリンパ腫)の進行していたディヌ・リパッティが、亡くなる9カ月前、1950222日のスイス・ロマンド管弦楽団定期演奏会に出演した時のライヴ録音です。リパッティにはカラヤン、フィルハーモニア管弦楽団と協演した1948年盤もございますし、そちらの方がよく知られていて、また、入手も容易ですが、このアンセルメ盤も奥行きを感じさせる、丁寧な演奏です。作品への誠実さ、共感と愛にあふれているのです。
 しかもこのとき、リパッティは、高熱を薬で押さえて何とかピアノのところにたどり着いたそうですが、演奏には一糸の乱れもないのです。冒頭和音からして、これほど曲の精神に適う、作曲家へのオマージュに満ちた弾き方は他のピアニストでは聴くことができないと思いました。
 こんなことを申しあげてよいか、いささか躊躇われますが、このモノーラル録音は、先夜響きのよいサントリーホールの1階席15列で聴かせていただいたヴィルサラーゼ女史の豪快なソロよりも、はるかに心を動かされるものがございます。
 
(160) シューマン ピアノ協奏曲イ短調 作品54 リパッティ/アンセルメ Schumann Piano Concert A-minor - YouTube
                               2023年6月2日記