イギリスの名バス・バリトン、プリン・ターフェルさんが、東京・春・音楽祭の招きで来日され、4月5日のオーケストラ伴奏リサイタル「opera night」、及び、本日と16日の演奏会形式『トスカ』にスカルピア役で出演されました。16日公演はこれからですが、 本日の『トスカ』をさきほど拝聴してまいりました。そして、これはもう、このオペラは『スカルピア』に改題してもよろしいのではないかと思うほど、ターフェルさんの底力というものをまざまざとみせつけられました。
 第一幕、画家カヴァラドッシがマリア像を描く聖アンドレア・デルラ・ヴァルレ大聖堂に、ターフェルさん扮するスカルピアが姿を現したときから、もう、あたり一面の色合いが重くどす黒いものに変わったのです。第一声のどすの利いていることはこの上ありません。小道具の、女性の扇の扱いもことこまかく、堂にいった所作でした。
 第2幕の、トスカへの執着、あめと鞭の使い分け、残忍さ、狡猾さの表現もまことに剛柔自在の素晴らしさ、ことに、あくまでも拒否するトスカの耳元で、部屋の隅にいる部下スポレッタに聴かれないよう、「いいね」とささやいた絶品のピアニッシモは、思わず、ぞっとするほどでした。
 トスカのクラッシミア・ストヤノヴァさんも歌唱も卓抜、声の演技も所作もトスカの人物像を描き出して過不足なく、アンジェロッティの甲斐栄次郎さん、堂守の志村文彦さんも、外国人歌手に遜色のない歌いぶりでいらっしゃいました。
 カヴァラドッシのイヴァン・マグリさんは、本来予定されていた、ピエロ・プレッティさんからの急な代役ということで、ただお一人、譜面台を立てて、いそがしくご自身でめくりながらの歌唱でいらしたのが痛々しい感じを受けました。それもさておき、お声の質に独特の粘りと、カラス声的な響きがあり、芸術の前には恐れるものなどないという、カヴァラドッシの人物像にかなりの隔たりがあったのが残念でございました。
 ともあれ、プリン・ターフェルさんの、世界遺産と呼んでよい圧巻のスカルピアを聴けて、感動の一夜となりました。
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 こちらはカーテンコールの写真。ひときわ大柄なお方が、ターフェルさんです。その左が、指揮のフレデリック・シャスランさん。堂守の軽妙な愚痴から、重く深刻な場面、歌唱まで、軽重自在に、物語の進行とキャラクター、歌手の声質にに合わせて、きめこまやかにおつけになる、練達のマエストロでした。この方のご功績も大きなものでした。
 1965年生まれ。57歳のターフェルさんを東京で聴ける、千載一遇のチャンスと思われます。
 16日の日曜日、15:00より、東京文化会館大ホールで、もう一度同じ公演がございます。
                              2023年4月13日記