東京・春・音楽祭2023の一環、イタリア・オペラ・アカデミーin 東京 vol.3 リッカルド・ムーティ指揮 ヴェルディ『仮面舞踏会』演奏会形式2公演のうち、第一夜を、昨晩3月28日の晩に、東京文化会館大ホールで拝見いたしてまいりました。
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 1859217日にローマのアポロ劇場で初演された『仮面舞踏会』はジュゼッペ・ヴェルディ(1813-1901)のオペラ第21作にあたります。1792年に起きたスウェーデン国王グスタフ3世(1746-1792)の暗殺事件を描いたスクリープの戯曲を原作としていて、時代設定や人物名などは変更されてはいても、 為政者が暗殺されるという体制側からみれば好ましくない内容だったため、上演には様々な困難が伴いました。
 イギリスからアメリカに派遣されている
ボストン総督リッカルドには、忠実な部下で、親友でもある秘書のレナートがいました。レナートは一途にリッカルドのことを思い、反対派の動きに気を配っています。でも、リッカルドは密かに、レナートの妻アメーリアを愛していて、アメーリアもまた、いけないこととは知りつつ、リッカルドに心を惹かれていたのです。
 オペラの第1幕は、リッカルドを讃える合唱から始まります。続いて、仮面舞踏会の招待者名簿の中に愛するアメーリアの名を見出したリッカルドがアリア『もう一度彼女に会える』を歌います。
 リッカルド役のアデル・ザダさん。もう少しお声が伸びると、なおよかったのではないでしょうか。
 次いでレナート役のセルヴァン・ヴァシレさんが、謀反の動きがあるので用心するようリッカルトに進言して、アリア『あなたの喜びのために』を歌います。このバリトンの方のお声の方が立派でした。
 次いで、判事役の志田雄二さんが、女占い師ウルリカの追放を求めますが、小姓オスカル役のダミアナ・ミツツィさんがウルリカを弁護して歌います。

 第1幕第2場はウルリカの住む洞窟です。ウルリカ役は、ユリア・マトーチュキナさん。声量と言い表現力と言い、占い師らしい凄みと言い、申し分のないウルリカ歌手です。当夜の歌手たちの中では、この方が最高でした。それなのに、残念なことに、ウルリカの出番は第1幕にしかありません。
 ウルリカの予言は次々に的中。アメーリアが現れて、既婚の身で恋してしまった悩みをウルリカに打ち明けます。
 アメーリア役のジョイス・エル・コーリーさん。お声に独特の陰りと妍があり、高音に上がる箇所に聴き苦しさを感じさせます。たどりついた高音も音量は張ってもやや濁っていて、かなり個性の強いソプラノでした。
 ウルリカはアメリアに、夜中に恐ろしい荒れ地へ一人で行って、自分の手で摘んだ薬草を飲めば、相手を思いきることができると助言します。次にリッカルトが運勢を占ってもらうと、今から最初に握手した人間に殺されるだろうとの予言。一同恐れ戦きますが、そこへ何も知らないレナートが現れ無邪気にリッカルドの手を握ってしまいます。

 第2幕は真夜中の荒れ地。迷いを吹っ切るための薬草を摘みにきたアメーリアはリッカルドと出会い、愛の二重唱となります。そこへ、暗殺者たちの接近を知らせにレナート登場。リッカルドはアメーリアにヴェールで顔を隠させ、彼女の護衛をレナートに頼んで去りますが、暗殺者たちに遭遇したとき、アメーリアはヴェールを取り去って彼らを押しとどめたため、レナートは、リッカルドの愛人が自分の妻であったことを知り、驚愕して復讐を誓います。
 第3幕第1場はレナートの書斎。レナートが妻に、死をもって不貞を償え、と迫っていると、暗殺者たちが訪ねてきます。レナートは自分も仲間に入ると言って、実行犯役のくじをアメーリアに引かせると、アメーリアはレナートを引き当ててしまいます。

 第3幕第2場はリッカルドの部屋。アメーリアへの思いを断ち切るために、レナート夫妻を本国へ転任させようと考えるリッカルド。そこへ、小姓オスカルが匿名女性からの「暗殺者に注意」との手紙を持ってきますが、リッカルドは恐れません。
 そしていよいよ、第3幕第3場は大広間の仮面舞踏会。レナートは、リッカルドの仮装をオスカルから聞きだそうとします。オスカルのアリア『知っていても言えない』をダミアナ・ミッツィさんは清澄なソプラノで歌われました。アメーリアはリッカルドに「逃げて」と懇願して二重唱となります。そこへレナートが近寄り、リッカルドに剣の一撃を。
 この瞬間は、音楽ではっきりとわかりました。
 この場面に限らず、とにかく、オーケストラのお仕事が非常に高次元です。
 瀕死のリッカルドは、苦しい息の下から、レナートにアメーリアの潔白を告げ、周りの人たちにレナートを罪に問うことなく、本国へ帰すよう命じて息絶えます。
   

 演奏会形式の長所として、オーケストラ・ワークの素晴らしさが前面に出た公演でした。
 この音楽祭のために特別編成された東京春祭オーケストラは、読響コンマスの長原幸太さんと、N響コンマスの郷古簾さんの2人コンマス体制。各楽器のトップも精鋭揃い。マエストロ・ムーティが、今もっとも気に入られているオーケストラとのことです。

                                 2023年3月29日記