ホルンという楽器は、狩り場で合図のために吹いた角笛に由来するそうで、オーケストラの楽曲でも、例えば、スメタナの連作交響詩『吾祖国より』の第2曲『モルダウ』でも、モルダウ川の流れが形成されて間もなく、川岸の森での狩りの場面を描写して、角笛風の狩りの音楽が流れます。
 角笛に由来する楽器、ホルンは、もともと、自然倍音だけで音をつくる、非常にシンプルと申しますか、自然界にある音だけを紡ぐ、人肌の温もりある優しい楽器でした。バルブ・ホルンの発明によっ音程の表出が可能になったとはいえ、もともとが角笛ですから、吹ける音が限られている方があるべき姿です。
 そんなお話を、現代屈指の名ホルン奏者、福川伸陽さんがしてくださりながら、しかも、現代ホルンではなく、敢えて、音程を作るピストンのない、昔のホルンでいろいろな曲を演奏してくださったのは、3月24日の東京・春・音楽祭の一環公演、『福川伸陽&古楽の仲間たち』公演でした。
 ほとんど主和音とその変化音しか出せない、ピストンなしのホルンで、福川さんはヘンデル、テレマン、C.H.グラウンほかの古い時代のホルン入り楽曲を聴かせてくださいました。
 何しろ、ピストンなしのホルンは、自然倍音列しか吹けないために、ホルン入りの曲はすべて、長調だったことも、なるほどと思いました。
 帰宅後、おりから、キング・インターナショナルからリリースされた、福川さんの、最新アルバムを聴かせていただきました。このジャケットのイラストも本当によく描けていて、福川さんとシュトラウスの豊かな表情としぐさに感動いたします。
IMG20230327163951_20230327164127
 これは、リヒャルト・シュトラウスの二つのホルン協奏曲他を収めたアルバムで、モダン・ホルンではございますが、福川さんの超絶的なテクニックと類まれな音楽性を再認識させていただきました。
                                    2023年3月27日記