本日、紀尾井小ホールで、4名の邦楽演奏家の方たちのグルーブ「SATZ」の第2回公演を聴かせていただきました。SATZとは、胡弓の髙橋翠秋さんS、三絃と筝と歌の藤本昭子さんA、太棹の鶴澤津賀寿さんT、尺八の善養寺惠介さんZの頭文字から名づけたグループ名だそうでございます。一口に邦楽と申しましても、楽器も演奏形態も多種多様にございます。その壁を越えて共演の糸口を見つけ、邦楽演奏の可能性を広げておられるアクティヴな演奏家4名の、本日は2回目の演奏会でした。
 メンバーのお一人、太棹の鶴澤津賀寿さんが人間国宝の認定を受けられたお祝も兼ねた会で、津賀寿さんの師匠、竹本駒之助先生が特別出演なさり、津賀寿さんの太棹で、義太夫『恋女房染め分け手綱』から『重の井子別れの段』を語ってくださいました。
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 竹本駒之助先生は1935年淡路のご出身。49年、大阪に出て竹本春駒の内弟子となられて修業された義太夫の第一人者で、1999年に人間国宝の認定を受けられていらっしゃいます。
 『重の井子別れの段』は、さる大名に仕えていた腰元の重の井が若侍の与作と恋仲になりながら晴れて結ばれることができず、密かに生んだ息子、三吉と再会してわが子と気づきながらも、今、自分は主家の姫君の乳母としての公務があるがゆえに、母を恋うるわが子に人違いだと言いふくめ、涙をのんで子別れする場面です。
 義太夫はその複雑な物語を、それぞれの人物、及び、ト書き部分を、声色を使い分けて語ります。
 もっともお見事だったのは、息子の三吉の声色とその声涙振り絞った声の演技でした。87歳の駒之助先生が10歳かそれくらいの、馬子として働く薄幸の少年、三吉の母親への慕情と、母と確信する重の井から拒絶されたときの無念の気持ち、せめてもとお金を渡されたときに、「おっかさんでもない方からはいただけません」ときっぱり断る勤労少年のプライドを、お声ひとつで迫真に表現されたのには息を飲みました。
 それで思いましたのは、義太夫は一人オペラなのだ、ということでございます。たった一人で、語りだけで演じる一人オペラと呼べるのではございませんでしょうか。
 そして、それに絶妙の呼吸でつける、鶴澤津賀寿さんの太棹は、指揮者も兼ねた一人オーケストラでございます。これは日本が世界に誇る、最小編成のオペラなのだと、そんなことを感じながら聴かせていただいておりました。
 もちろん、メンバーの方たちそれぞれの演目もたいへんすばらしゅうございました。年の瀬に圧巻の邦楽公演を堪能させていただき、大満足で帰途に就きました。ありがとうございました。
                                  2022年12月29日記