2021年に中央公論新社より発刊した拙著『ウィーンに六段の調 戸田極子とブラームス』では、オーストリア=ハンガリー特命全権公使としてウィーンに赴任した戸田氏共伯爵の妻・極子が、ブラームスの前で六段の調を弾いたいきさつをご紹介いたしました。
 ブラームスは、戸田伯爵家の音楽教師を務めていたボックレットという音楽家が極子夫人の弾く『六段の調』を五線譜に採譜した出版譜をボックレットから贈られて、強い興味を抱き、自分も是非、オリジナル演奏を聴きたい、と、極子さんのところへやってきたのです。そのとき彼は、ボックレット採譜の五線譜『六段の調』を携えてきて、極子さんの実演奏と聴き比べ、気づいたことを書き込んだのです。
Eintragung von Brahms. (Teil)

 上の写真のドイツ語の走り書きの解読が困難で、これまで、わたくしはそこに言及できませんでしたところ、ご親切なドイツ語教授の早坂七緒先生が解読に挑戦してくださり、ご友人のドイツ語ネイティブの方たちのご協力まで仰いでくださって、このほど、その意味が判明いたしました。
 文言は„nichts geworden m(it) d(em) Original“
意味は、(訳しにくいが)オリジナルに比してまったくダメ。

 あるいは

nicht genau n(ach) d(em) Original 
 意味は、オリジナルに正確ではない。(正確に採譜されていない。)

 ブラームスは、極子さんの実演を聴いて、ボックレットの採譜が全くダメ、もしくは、正確でない、と、瞬時に聴きとったのでございました。
 さすが、ヨハネス!
 早坂先生に大感謝でございます。
                                  2022年12月20日記