本日午後、東京オペラシティコンサートホールで開催されたバッハ・コレギウム・ジャパンの第152回定期演奏会で、ジュースマイヤーの補筆完成版に基づく鈴木優人さん補筆校訂版によるモーツァルト『レクイエム』を聴かせていただきました。モーツァルトが完成させられないまま亡くなったこの作品は、紆余曲折の末、若い弟子フランツ・クサーヴァー・ジュースマイヤーが補筆完成させたわけですが、その不完全性を巡って議論百出とはいえ、モーツァルト本人をよく知るジュースマイヤーが師匠の死から間もない時期にともかくも一通りの形にしておいてくださったこと、そしてそれが、完全ではなかったことがかえって幸いして、のちの作曲家たちによる建設的なアプローチが多々行われたことを、鈴木優人さんは評価されつつ、ご自分の版による真摯な演奏を聴かせてくださいました。
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 わたくしは、優人さんがジュースマイヤーの滅私奉公的なお仕事に一目も二目もおかれ、しかも、この校訂の仕事に正解はないのだと明言された上で、あくまでもひとつの解として聴かせてくださったことに深い共感を覚えました。
 4人のソリストは皆さんBCJお馴染みの、ソプラノが森麻季さん、カウンターテナーが藤木大地さん、テノールが桜田亮さん、バスがドミニク・ヴェルナーさん。ソロもアンサンブルもお見事でした。それに勝るとも劣らないBCJ合唱団のきわめて明澄で、各声部の魅力にあふれ、かつ、すべてがよく溶けあったコーラスに心からの大拍手を送らせていただきました。
 公演評はしっかり噛みしめてからかかせていただきます。『音楽の友』の次々号になりそうでございます。
                                2022年10月30日記