小山実稚恵さんの新シリーズ『以心伝心』は、サントリーホールを会場に今年から毎年1回、2025年まで4回にわたるコンチェルト・シリーズです。各回、異なる指揮者とオーケストラを協演相手に招き、小山さんが今もっとも聴いて欲しい旬のコンチェルトを聴き手に届ける、というコンセプトで本日からスタートしました。春にこの企画の発表記者会見があったときには、まだまだ先のことと思っておりましたが、あっという間に月日がたち、もう、本日を迎えました。
今回は、大野和士指揮東京都交響楽団が協演相手に招かれました。
1曲目は、メンデルスゾーンの序曲『美しいメルジーネの物語』。
この作品を都響が演奏するのは近年なかったことだそうで、矢部達哉コンマス以下、楽員の皆様、フレッシュな気持ちでとりくまれているのがよくわかる、瑞々しい演奏でした。
終演後に、大野和士マエストロにお話を伺いますと
「美しいメルジーネ、っていうのは、小山さんをイメージしたんですよ」
とのこと。お二人は藝大同期で、長年にわたって敬愛を捧げ合っていらっしゃる間柄です。 2曲目のメンデルスゾーンのピアノ協奏曲第1番ト短調はいかにもメンデルスゾーンらしいロマンティックかつ、ドラマティックな銘品ですが、実演機会はあまりありません。
ところが、小山さんはもうずいぶん前に、ジャン・フルネ指揮の東京都交響楽団と一度共演なさったことがあり、そのときこれを聴いていらした大野さんが強い印象を受けて、今回の曲目としてご提案なさったのだということです。
滅多に聴けないメンデルスゾーンのピアノ協奏曲に、小山さんが命を吹き込まれるごようすはとても新鮮で、作品の魅力も存分に味わわせていただくことができました。
休憩後の後半、上皇后美智子さまが会場におみえになられました。
コロナ禍以前は、時々コンサートにご来臨があられましたが、このところはおみかけさせていただけず、少なくともわたくしにとりましては、久々のご来臨への遭遇でした。
心から音楽を愛される、美智子上皇后陛下のご来臨は、会場の空気を引き締め、皆、心を一つにして小山さんの奏でる音楽に身を委ねようという連帯感のようなものが生まれました。
その連帯感を感じられたのでしょうか、小山さんは片時も集中力を欠くことなく、後半のラフマニノフの第3番に幅と奥行きの広い、名演を聴かせてくださいました。この巨大にして超難曲の協奏曲は小山さんが節目節目に弾いてこられた、看板曲ともいうべき大切なレパートリー。これまでにも何回となく拝聴してきましたが、その都度、これまでの中の最高の演奏、と思い、昨日もそのように感じました。アスリートの方たちにとって最大のライバルは過去の自身の記録、といわれるように、演奏家もご自身の過去最高の演奏を越えることが、ある一つの課題かもしれません。それを実現されておられる小山さんに感嘆いたしました。
アンコールは、なんと、大野和士マエストロとのピアノ連弾のドヴォルザーク『スラヴ舞曲ホ短調』に息のあったところを披露してくださいました。それだけでもありがたく聴かせていただきましたが、最後に小山さんソロのバッハ『平均律クラヴィーア曲集』第1巻のハ長調プレリュードを、何の気負いもない自然体で弾いてくださいました。シンプルの極みのなかに潜む、パッハの重大メッセージに頭を垂れました。
2022年10月29日記
今回は、大野和士指揮東京都交響楽団が協演相手に招かれました。
1曲目は、メンデルスゾーンの序曲『美しいメルジーネの物語』。
この作品を都響が演奏するのは近年なかったことだそうで、矢部達哉コンマス以下、楽員の皆様、フレッシュな気持ちでとりくまれているのがよくわかる、瑞々しい演奏でした。
終演後に、大野和士マエストロにお話を伺いますと
「美しいメルジーネ、っていうのは、小山さんをイメージしたんですよ」
とのこと。お二人は藝大同期で、長年にわたって敬愛を捧げ合っていらっしゃる間柄です。 2曲目のメンデルスゾーンのピアノ協奏曲第1番ト短調はいかにもメンデルスゾーンらしいロマンティックかつ、ドラマティックな銘品ですが、実演機会はあまりありません。
ところが、小山さんはもうずいぶん前に、ジャン・フルネ指揮の東京都交響楽団と一度共演なさったことがあり、そのときこれを聴いていらした大野さんが強い印象を受けて、今回の曲目としてご提案なさったのだということです。
滅多に聴けないメンデルスゾーンのピアノ協奏曲に、小山さんが命を吹き込まれるごようすはとても新鮮で、作品の魅力も存分に味わわせていただくことができました。
休憩後の後半、上皇后美智子さまが会場におみえになられました。
コロナ禍以前は、時々コンサートにご来臨があられましたが、このところはおみかけさせていただけず、少なくともわたくしにとりましては、久々のご来臨への遭遇でした。
心から音楽を愛される、美智子上皇后陛下のご来臨は、会場の空気を引き締め、皆、心を一つにして小山さんの奏でる音楽に身を委ねようという連帯感のようなものが生まれました。
その連帯感を感じられたのでしょうか、小山さんは片時も集中力を欠くことなく、後半のラフマニノフの第3番に幅と奥行きの広い、名演を聴かせてくださいました。この巨大にして超難曲の協奏曲は小山さんが節目節目に弾いてこられた、看板曲ともいうべき大切なレパートリー。これまでにも何回となく拝聴してきましたが、その都度、これまでの中の最高の演奏、と思い、昨日もそのように感じました。アスリートの方たちにとって最大のライバルは過去の自身の記録、といわれるように、演奏家もご自身の過去最高の演奏を越えることが、ある一つの課題かもしれません。それを実現されておられる小山さんに感嘆いたしました。
アンコールは、なんと、大野和士マエストロとのピアノ連弾のドヴォルザーク『スラヴ舞曲ホ短調』に息のあったところを披露してくださいました。それだけでもありがたく聴かせていただきましたが、最後に小山さんソロのバッハ『平均律クラヴィーア曲集』第1巻のハ長調プレリュードを、何の気負いもない自然体で弾いてくださいました。シンプルの極みのなかに潜む、パッハの重大メッセージに頭を垂れました。
2022年10月29日記
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