昨10月26日の晩、ルーテル市ヶ谷ホールで、戸田弥生さんの「バッハ無伴奏ソナタ&パルティータ全曲CD発売記念 バッハへのオマージュvol.1」と題した、リサイタルを聴かせていただきました。今年の4月、20年ぶりの再録音としてバッハの全6曲をリリースなさった記念公演です。でも、とても謙虚な戸田さんのお言葉によると「記念リサイタルなどという華やかなことをしないで、一人でそっと、ああよかったなあ、と喜びをかみしめていようかと思ったのですが、やはり皆様へのご報告として自主演奏会を開かせていただくことにしました」。「実は私は、ほとんど自主演奏会をしたことがなくて、これが2回目なんです」とおっしゃいます。
戸田弥生さんといえば、1985年日本音楽コンクールに優勝なさり、桐朋学園音楽大学卒業後、アムステルダムのスウェーリンク音楽院に留学、1993年、ベルギーのエリザベート王妃国際コンクールの優勝を機に世界的に活躍を続けるヴァイオリニスト。出光音楽賞など数々の賞にも輝いておられ、演奏オファーはひきも切らないでしょうから、自主公演というのはよくよくのご決断でしょう。それほど、バッハ無伴奏の全曲録音は、ヴァイオリニストにとっての大きな節目なのだと痛感いたしました。
休憩なしの約70分公演。凝縮された時間の中で演奏されたのは下記の曲目です。
●バッハ : 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番 ト短調 BWV.1001
●バルトーク: 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ Sz117 より 第3楽章
●レーガー : プレリュード ニ短調 op.117-6
●バッハ : 無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番 ニ短調 BWV.1004
渡米後、病苦と貧苦にあえぐバルトークの危機的状況を心ある音楽関係者は皆憂い、支援の金品を送ると、清廉すぎるバルトークは、空っぽに近いお財布から送り賃を割いてまで、それらの金品を送り返してくるので、みんな困ってしまいます。
そこで、若きメニューインは、はたと膝を打ちます。
「バッハにも匹敵するような、無伴奏ソナタを書いてください」
こうして、バルトークの最晩年に作曲された無伴奏ソナタは、とてつもない難曲となり、依頼者のメニューインでさえも、完璧に弾くことは困難でした。ともかくも、その作曲料だけは、さすがのバルトークも気持ちよく受け取り、最晩年の夫妻の生活の支えとなりました。
そんなソナタですので、随所にBachを感じる箇所があります、と戸田さん。
もう1曲のレーガーは、バッハ並みのオルガンの大家であったレーガーの、オルガン的書法も感じ取れる名作ゆえに、今回、選ばれたとのことでした。
戸田さんのバッハ無伴奏再録音CDについては、5月頃、本ブログに感想を書かせていただいたように深く感じ入っておりますが、やはり、生演奏で聴く味わいはひとしおでした。曲への没入度が高く、総じてテンポは速め。ことに、息もつかせず、畳みかけるようにして一気に奏されたフーガは圧巻でした。
音の密度が抜群に濃く、表情も極めて多彩で変化に富んでいます。表情の多彩さは例えば、ニ短調パルティータの『シャコンヌ』の第2部、ニ長調部分で晴れやかな楽想が控えめに美しい弱音で紡がれたとき、再びニ短調に還って静かに弾き収められていくとき、などに如実に感じました。
レーガーではまさにオルガンのような音響も実現されていました。
アンコールは、パルティータ第3番の『ガヴォット』でした。
来年は、エリザベート優勝から30年とのこと。益々のご活躍を楽しみにさせていただきます。
2022年10月27日記
戸田弥生さんといえば、1985年日本音楽コンクールに優勝なさり、桐朋学園音楽大学卒業後、アムステルダムのスウェーリンク音楽院に留学、1993年、ベルギーのエリザベート王妃国際コンクールの優勝を機に世界的に活躍を続けるヴァイオリニスト。出光音楽賞など数々の賞にも輝いておられ、演奏オファーはひきも切らないでしょうから、自主公演というのはよくよくのご決断でしょう。それほど、バッハ無伴奏の全曲録音は、ヴァイオリニストにとっての大きな節目なのだと痛感いたしました。
休憩なしの約70分公演。凝縮された時間の中で演奏されたのは下記の曲目です。
●バッハ : 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番 ト短調 BWV.1001
●バルトーク: 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ Sz117 より 第3楽章
●レーガー : プレリュード ニ短調 op.117-6
●バッハ : 無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番 ニ短調 BWV.1004
渡米後、病苦と貧苦にあえぐバルトークの危機的状況を心ある音楽関係者は皆憂い、支援の金品を送ると、清廉すぎるバルトークは、空っぽに近いお財布から送り賃を割いてまで、それらの金品を送り返してくるので、みんな困ってしまいます。
そこで、若きメニューインは、はたと膝を打ちます。
「バッハにも匹敵するような、無伴奏ソナタを書いてください」
こうして、バルトークの最晩年に作曲された無伴奏ソナタは、とてつもない難曲となり、依頼者のメニューインでさえも、完璧に弾くことは困難でした。ともかくも、その作曲料だけは、さすがのバルトークも気持ちよく受け取り、最晩年の夫妻の生活の支えとなりました。
そんなソナタですので、随所にBachを感じる箇所があります、と戸田さん。
もう1曲のレーガーは、バッハ並みのオルガンの大家であったレーガーの、オルガン的書法も感じ取れる名作ゆえに、今回、選ばれたとのことでした。
戸田さんのバッハ無伴奏再録音CDについては、5月頃、本ブログに感想を書かせていただいたように深く感じ入っておりますが、やはり、生演奏で聴く味わいはひとしおでした。曲への没入度が高く、総じてテンポは速め。ことに、息もつかせず、畳みかけるようにして一気に奏されたフーガは圧巻でした。
音の密度が抜群に濃く、表情も極めて多彩で変化に富んでいます。表情の多彩さは例えば、ニ短調パルティータの『シャコンヌ』の第2部、ニ長調部分で晴れやかな楽想が控えめに美しい弱音で紡がれたとき、再びニ短調に還って静かに弾き収められていくとき、などに如実に感じました。
レーガーではまさにオルガンのような音響も実現されていました。
アンコールは、パルティータ第3番の『ガヴォット』でした。
来年は、エリザベート優勝から30年とのこと。益々のご活躍を楽しみにさせていただきます。
2022年10月27日記
コメント
コメント一覧 (2)
コンクール入賞直後のころだったでしょうか、カザルスホールで戸田さんの独奏によるモーツァルトの協奏曲(確か第5番)の演奏会がありました。第1楽章が終わったところで、指揮者のアレクサンダー・シュナイダーが、感に堪えたように戸田さんを見つめ、ふーっと大きく息をついたのです。
アレクサンダー・シュナイダーといえば、ブダペスト弦楽四重奏団の第二ヴァイオリン奏者にして、カザルス音楽祭を組織し、幾多の輝かしい才能を育ててきた名手です。その人が、若き戸田さんの白熱的演奏に打たれた光景は鮮烈な印象として残っています。
あの戸田さんが、年輪を経て達成した二度目のバッハ無伴奏の全曲録音、さぞかし素晴らしいものなのでしょうね。
yukiko3916
が
しました
その頃から、戸田さんを見守っていらしたのですね。
その印象的なシーンのご記憶、貴重です。
わたくしはその演奏会には出掛けておりませんが、あの頃の瑞々しいエネルギーに溢れた戸田さんの記憶はございます。
今もその、桁外れの集中力はかわらず、そこに円熟のまろやかさが加わられました。
yukiko3916
が
しました