昨日はマエストロ・チョン・ミュンフン&東京フィルの、これぞヴェルディ喜劇の決定版ともいうべき『ファルスタッフ』を拝見・拝聴してあらためてヴェルディのオペラ精神に感服したわけでございましたが、実はその2日前に、ドイツ在住でただいま北イタリアを行脚中の音楽評論家、城所孝吉氏より、胸の痛むお知らせを頂戴しておりました。
 城所先生通信によりますと、ヴェルディが晩年を過ごし妻ジュゼッピーナと共に農業にいそしんだサン・ターガタのヴェルディの家が、これまで何とか維持されてきたご遺族のお力がついに尽きて、今しも閉館、第三者に売却されることになったそうでございます。
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 なんということでしょう。 
 なぜなら、ここは、大恩人の娘であった最初の妻とその子どもたちをあっという間に病魔に連れ去られたヴェルディが、彼を悲嘆の底から立ち直らせてくれた心優しいブリマドンナ、ジュゼッピーナと再婚して、ジュゼッビーナを誤解する田舎の人々の中傷から逃れ、二人で畑仕事に生きがいを見いだした、いわばヴェルディ夫妻の再生の地なのです。
 その、あたかも農夫、農婦のような生活の中から、晩年のシェイクスピアによる2大傑作『オテロ』と『ファルスタッフ』が生まれたのです。 
 ヴェルディとジュゼッピーナには実子はいませんでしたが、親戚の娘を養女になさり、養女のご子孫が土地と農場と記念館を管理しておられたようなのです。その相続者がお二人おられるらしく、片方だけ相続なさるのが難しく、売ってお金にしてお分けになる、というようなことになったようです。
 城所先生によりますと、お国か州がお買い上げになられることを祈るばかりとのことでございます。
 どうしてこのようなことになってしまうのか……。日本の一ファンとして何もできないのが歯痒く感じられてなりません。
                                2022年10月24日記