今年の6月に日本で録音された音源をメインとする、ツィメルマンの最新アルバム『シマノフスキ:ピアノ作品集』を、雨模様のお天気の中、しっとりとした気分で拝聴しております。CDの帯に「シマノフスキ生誕140周年を記念した新作!」とあるのをみて、そういえば、カロル・シマノフスキは1882年生まれだった、と気づきました。しかもお誕生日は10月3日か6日とのことで、まさに今月の主役のお一人でもあります。
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 作品には、4曲の交響曲、2曲のヴァイオリン協奏曲、3曲のピアノ・ソナタ、、その他のピアノ独奏曲、2曲の弦楽四重奏曲、1作のオペラなどがありますが、比較的知られているのは、2曲のヴァイオリン協奏曲、五嶋みどりさんのアンコール・ピースに入っているヴァイオリンとピアノのための『神話』の第1曲「アルトゥーザの泉」といったところでしょうか。ピアノ独奏曲はわたくし自身、あまり聴いてこなかったのですが、ツィメルマンのこの最新アルバムが出たことと、今年が記念年ということで、シマノフスキに親しむにはよい機会かと存じました。
 収録曲は下記でございます。

 〇9つの前奏曲 より、1.2.7.8番
 〇仮面劇 (
1994年にツィメルマンが初めて録音した作品でこれまで未発表だったもの)  
 〇20のマズルカ より 13~16番
 〇ポーランド民謡の主題による変奏曲

 作曲時期によって作風はかなり異なりますが、通底しているのは、ほの暗い情熱と神秘感とでも申しましょうか。普段は沈潜している鋭い感性にささいなきっかけで火が付くと、激しい感情の嵐を吹き荒れさせるさまには思わず心が揺さぶられます。ツィメルマンのピアノは、そんなシマノフスキの心情吐露をあますところなく表現していて、しかも、技術が超一流ですので、ピアニスティックな演奏効果も存分に味わわせていただくことができました。
  録音会場は福山市のふくやま芸術文化ホールというところだそうで、なぜ福山?と思いましたら、このホールはツィメルマンの友人の音響設計家、豊田泰久氏の設計した、お気に入りのホールだということでございます。ツィメルマンは同ホールについて「
豊田氏のホールでは、すべての音がクリアで、なおかつクッションで包まれるような温かみのある響きが魅力的です」と述べています。
 ところで、わたくしの認識では、シマノフスキはポーランドの作曲家でした。
 それゆえ、同じポーランド出身のツィメルマンが同じお国の作曲家へのオマージュとしてこのアルバムを録音されたのだと思ったのですが、彼の生地ティモシウカを調べてみて驚きました。なんと、ここは現在のウクライナ中部のチェルカースイ州にある村だそうでございます。もともとはポーランド領だったものが、19世紀にはロシアに割譲されていて、それがのちにウクライナの一部となったということでしょうか。ポーランドとウクライナはとても近い関係にある事がよくわかりました。
 ウクライナのみなさま、そして、ウクライナを温かく支援するポーランドのみなさま、野蛮な侵略者にどうぞ打ち克ってくださいませ。応援しております。
                                  2022年10月7日記