イリーナ・メジューエワさんが9月20日にリリースされた最新アルバム『ノスタルジア』は、近年では珍しく、作曲家にテーマを絞ったものではなく、ノスタルジアという深い想念を喚起させるピアノ曲を集めた、コンセプト・アルバムです。先日拝受し、早く聴かせていただきたいと念じ、慌ただしく聴くのも集中できませんため、月末の一連の仕事を何とか終えましたので、今ようやく身を入れて拝聴しながらこの記事を書いております。
 録音は2021年11月9日から10日。会場は相模湖交流センター。  
 アルバムはショパンのマズルカop.50-3から始まります。続けてop.59-3。
 ドヴォルザークの『ユーモレスク』2曲。
 バルトークの『ルーマニア民俗舞曲』
 スクリャービンの『2つの小品』op.57
   メトネルの『おとぎ話』2曲
 ヤナーチェクの『ふくろうは飛び去らなかった』
 そして最後に、1974年宮津市生まれの作曲家、平野一郎さんの『2つの海景』
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 聴かせていただいていると、記憶の奥襞が一枚一枚めくれていって、普段、忘却の彼方に追いやっていたあの思い出や、セピア色の情景がぼんやりと浮かび上がってまいります。
 人は誰しも、自分だけのそれがございますが、イリーナさんの感性豊かな選曲と、うす墨色のピアノの音色は、広い普遍性をもって、全ての聴き手に、その人だけのノスタルジーを呼び起こしてくれるように感じました。
 ブックレットには、イリーナさんご自身の子ども時代の思い出や、1907年生まれで1917年の革命期に辛酸ををなめられた、大好きなおじいさまの記憶などをつづった、人の過去、現在、未来について考えさせられる思索的なエッセイも収載されています。
ご主人様のこなれた日本語訳で読ませていただきました。
 平野一郎さんの楽曲は初めて拝聴しましたが、イリーナさんが魅了されただけあって、深い深い作品でした。
                                    2022年10月1日記