昨日928日の晩、大手町の日経ホールで、タカーチ・カルテットを拝聴してまいりました。1975年に創設されたこのアメリカのカルテットは、常設室内楽グループとして今では歴史、実力とも世界屈指の存在です。ただし、1990年代以降はメンバー交代が何度かあり、近年では第2ヴァイオリンに日系女性らしきハルミ・ローズさんが加わり、ヴィオラも最近前のベテラン女性から若手の黒髪男性リチャード・オニールさんに交代していました。第1ヴァイオリン担当の長身エドワード・ドゥシンベルさんは比較的在籍歴が長く、チェロのみが創設時からのメンバーである、アンドラーシュ・フェイエールさんという顔ぶれです。

img_220928

 ハイドンの82番『雲が行くまで待とう』、ラヴェル、シューベルト『死と乙女』というプログラムが演奏されましたが、曲の開始部がどれもきわめてデリケートで、固唾を飲み、息をつめて聴き入る思いがいたしました。そのデリケートな音楽づくりが4人に齟齬なく共有されているのもお見事で、第1ヴァイオリンの紡ぐ弱音に他の3人の音が吸い込まれるように収斂していって、一つの宇宙をなすさまは圧巻でした。

ダイナミクスの幅も広く、時にアグレッシブな表現も聴かれます。ことに、第2ヴァイオリン、ヴィオラの内声お二人のやんちゃぶりがスリリングで面白く、楽曲の全体像を彫琢するのに大いに貢献しておられました。このように、メンバーは代わっても老舗の屋台骨は健在。むしろ、今日的な積極的表現という点では、現メンバーに軍配が上がるでしょう。

最後に日系らしきハルミ・ローズさんが、一応、日本語で「こんばんは」と語り出され、アンコール曲を紹介してくださいました。肝心の曲名がよく聞き取れなかったのですが、サミュエル・コールリッジ=ティラーの『5つの幻想的な小品』より第3曲『ユモレスク』でした。これも味わい豊かでした。

                              2022929日記