1965年ブルガリア生まれの世界的メゾ・ソプラノが東京で15年ぶりとなるRECITALを開かれました。ヴェっセリーナ・カサロヴァさんは、ウィーン国立歌劇場、ザルツブルク音楽祭、バイエルン国立歌劇場などで長年主役を歌ってきた当代屈指のメゾソプラノです。

わたくしがこの方を知ったのは、1995年にミュンヘンで録音されたロッシーニのオペラ『タンクレディ』の全曲盤スタジオ録音を聴いたときでした。非常に個性豊かな、主張のはっきりしたメゾソプラノで、アジリタや装飾音の歌唱テクニックにも優れ、役への没入度も高い、大型歌手だと思ったものでした。下のジャケットの左がカサロヴァさんです。
今夜、リサイタルを聴かせていただいて、さすがにその頃から30年近くたちますので、当時の瑞々しいお声や正確な音程は望むべくもございませんでしたが、ドラマの構築力にはさすがと思えるものがございました。
この方はご自身の中にいくつものキャラクターを内在していらして、それらキャラクターのお声を瞬時にとりだされる技術に長けていらっしゃいますし、声域も広くていらっしゃるのですが、その声域と声域の境目をスムースに切り替える技が、当夜はうまく機能していらっしゃらなかったのは残念でございました。とはいえ、当夜は歌曲リサイタルですが、歌曲1曲のなかにオペラ並みにドラマを展開なさる手腕はさすがでいらっしゃいました。
あまり調子が良いとはお見受けできない状態ながら、ステージづくりや、ご自身の内蔵するキャラクターの自在な使い分けに感嘆いたしました。
特筆すべきは、歌曲伴奏の第一人者、チャールズ・スペンサーさんのフレキシブルなピアノでした。
曲目は以下の通りでございます。
ベルリオーズ:歌曲集《夏の夜》作品7
「ヴィラネル」
「ばらの精」
「入り江のほとり」
「君なくて」
「墓地で(月の光)」
「未知の島」
シューベルト:
《漁師の歌》D881b
《水の上で歌う》D774
ブラームス:
《青春の歌1》(わが恋は緑)Op.63-5
《ひばりの歌》Op.70-2
《永遠の愛について》Op.43-1
ブルガリア民謡:
《いっておくれ、小さな白い雲よ》
《メロディ》
《花娘》
《カリマンク・デンク》
※アンコール
『カルメン』より、ハバネラ『恋は野の鳥』
2022年9月14日記
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