アンジェラ・ヒューイットさんによるバッハの鍵盤楽器作品全曲演奏会シリーズ『バッハ・オデッセイ』東京公演が、今宵の第12回『フーガの技法』&コラール『われ汝の御座の前に進みいで』をもって完結いたしました。2016年秋に発表されたこのシリーズは、ロンドン、ニューヨーク、オタワ、東京、フィレンツェの各地で開催されてきたもので、途中、コロン禍による中断もあったものの昨年秋から再開して、東京では5月23日と今夜25日に第11回、第12回が相次いで開かれて、めでたく全公演が終わりました。
最終回の今夜は、ヒューイットさんご自身も客席のわたくしどももやはり特別の感慨があり、針一本落としても目立つような静けさの中、1曲1曲が感動的に進行し、最後の『3つの主題によるフーガ』の未完部分から、そのまま極めて自然にコラール『われ汝の御座の前に進みいで』につなげられました。このコラールは、最晩年に視力を失ったバッハが友人に口述した、旧作からの改編作で、バッハ没後に『フーガの技法』が出版されたときに併せて収載されたことから、続けて演奏される形がとられました。拝聴していても、まったく違和感がなく、むしろ、とても柔和なやさしい結ばれ方になったという印象を受けました。
そしてそのコラールが終わったとき、ヒューイットさんは弾き終えた形のまま手を宙に静止され、わたくしどももそれを息を飲んで見守って、どなたもいささかの物音も立てません。おそろしいまでの長い静寂、、、。ようやくヒューイットさんが手をそっと下ろされ、次いでゆっくりと立ち上がられたとき初めて、嵐のような拍手が沸き起こりました。

何回ものカーテンコールがございましたが、もちろん、それはアンコールを要求するものではなく、ヒューイットさんもピアノにお手をかけられながら深々とお辞儀をなさるのみで、屋上に屋根をお架けになるような真似はなさらず、最後は静かに引き上げられました。
ヒューイットさん、バッハの最後の到達点にわたくしどもをご案内くださいまして、まことにありがとうございました。
2022年5月25日記
コメント