1924年7月5日ブダペシュト生まれの不世出のチェリスト、ヤーノシュ・シュタルケルさまは、2013年の本日、アメリカ、インディアナ州のご自宅でご逝去されました。享年88。シュタルケルさまと言えば、コダーイの超難曲、無伴奏チェロソナタの1950年の録音で一大センセーションを巻き起こした名手として、つとに知られておいでです。このとてつもなく、重く、深く、テクニカルな曲が今日、多くのチェリストたちのチャレンジ目標となった端緒は、シュタルケルさまによって開かれたわけで、その功は音楽史に燦然と輝いています。
 コダーイも大変結構ですが、わたくしがことに愛聴いたしますのは、1992年6月にニューヨークで録音された、バッハ、無伴奏組曲全曲でございます。
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 最近はしばらくご無沙汰でしたので、ご命日に因み、本日久々に取り出してみましたら、ブックレットに、今は亡き遠山一行先生がエッセイを寄せておられるのに気づき、懐かしく再読しつつ、ディスクをかけるとどうでしょう。
 第一音からして明晰この上ない、ディクションのはっきりした、シュタルケルさま独特の音が立ち昇り、懐かしさでいっぱいになりました。力強さと深遠さを併せ持ち、ゆたかな人間味、ウィットにも富んでいて、チェリストの背後に人間バッハをありありと感じさせる名演に打たれました。
 これをせっせと聴いておりました頃は、現役バリバリでいらっしゃったのに、亡くなられて早9年、しかし、このような遺産を残してくださいましたことに感謝しきりでございます。
                                 2022年4月28日記