イリーナ・メジューエワさんから、昨年の二つの時期に録音なさったブラームスの2枚組作品集が届きました。これまでにも実に数多くの質の高い、また、広範なレパートリーにわたる録音作品をリリースなさってこられたイリーナさんですが、今回の『ブラームス:ピアノ・ソナタ第3番」は、間違いなく彼女の代表作の一つとなる傑作でございます。
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 2枚組の1枚目に、昨年12月収録の表題作、及び、弦楽六重奏曲第1番の第2楽章による『主題と変奏』が収められ、2枚目に、昨年4月収録の『2つのラプソディ』作品79、『4つのバラード』作品10、『4つのピアノ曲』作品119が入っています。まずこの選曲センスの卓抜さはどうでしょう。ブラームスのピアノ音楽の真髄が、ここにぎゅっと凝縮されているではございませんか。
 ピアノ・ソナタ第3番は、弱冠20歳の、一見はにかみやさんのおとなしそうな青年にしかみえないヨハネスの、うちに秘めた激しい感情と燃えるような情熱が、5つの楽章にあふれんばかりにこめられた炎のソナタでございます。そして、ソナタという音楽形式を用いて、自分の言いたいことのすべてをここに言いつくした、と感じたヨハネスがソナタのペンを置いた、最後のピアノ・ソナタでもございます。
 その彼の音楽の言葉を、イリーナさんは骨太な音と説得力のあるフレージング、堅牢な構築性をもって余さず伝えてくださいました。
 楽章を追うごとに、これを書いたヨハネスと、彼の真摯な代弁者となったイリーナさんの強い強い、音楽メッセージに打たれて、湧き出ずる涙を止めることができませんでした。
 ことに終楽章の後半に、突然の悠揚とした主題が出て来たときには、声をあげて泣いてしまいました。
 それで何とか気もちが鎮まったら、今度は、クララのお誕生日祝いに編曲したあのすばらしすぎる『主題と変奏』ですから、もういけません。またも涙腺が緩んでまいりました。
 2枚目についての感想はまた明日、綴らせていただきます。
                                    2022年4月15日記