本日から卯月。国際情勢は緊迫が続いておりますが、桜はまさに見ごろから風に花吹雪を散らす時期にかかってまいりました。そうした中、今年も318日から上野の山一帯では「東京・春・音楽祭」が開幕しております。わたくしもすでに、オープニングのリッカルド・ムーティ指揮東京春祭オーケストラによる、モーツァルト『交響曲第39番』&シューベルト『未完成交響曲』&同『イタリア風序曲』公演を始め、5公演を拝聴いたしました。

その中でも、330日、及び、明日42日の、東京春祭ワーグナー・シリーズvol.13《ローエングリン》が圧巻でございましたので、少しだけご報告させていただきます。

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このワーグナー・シリーズは、同音楽祭がコンサート形式上演で続けてきたものですが、2019年の《さまよえるオランダ人》のあとコロナ禍に見舞われて中断され、今年ようやく3年ぶりの再開となったものです。《ローエングリン》は2018年に一度上演していて、今回はその再演です。今年の指揮はマレク・ヤノフスキ、オーケストラはいつものNKK交響楽団ですが、コンサート・マスターはお馴染みのキュッヒルさんではなく、白井圭さんでした。

歌手陣は以下の通り。

 

ローエングリン(テノール):ヴィンセント・ヴォルフシュタイナー

エルザ(ソプラノ):ヨハンニ・フォン・オオストラム

テルラムント(バス・バリトン):エギルス・シリンス

オルトルート(メゾ・ソプラノ):アンナ・マリア・キウリ

ハインリヒ王(バス):タレク・ナズミ

王の伝令(バリトン):リヴュー・ホレンダー

ブラバントの貴族:大槻孝志、髙梨英次郎、後藤春馬、狩野賢一

小姓:斉藤園子、藤井玲南、郷家暁子、小林紗季子

管弦楽:NHK交響楽団

合唱:東京オペラシンガーズ

合唱指揮:エベルハルト・フリードリヒ、西口彰浩

音楽コーチ:トーマス・ラウスマン

 

 エルザ役のヨハンニ・フォン・オオストラムさんは当初予定のマリータ・ソルベルグさんからの変更、オルトルート役のアンナ・マリア・キウリさんも当初予定のエレーナ・ツィトコーワさんからの変更でしたが、おふたりとも、この役のために生まれてきたようなピタリとはまったキャラクターでいらっしゃいました。
 オオストラムさんは、いかにも深窓のお姫様然としたきれいな方で、ちょっと太めの中年騎士
ヴィンセント・ヴォルフシュタイナーさんには勿体ないような取り合わせでございました。容姿のみならず、肝心の歌唱も、ヴォルフシュタイナーさんにもっとお声が欲しいと思っておりましたところ、後半どんどん調子をお上げになり、終幕の長丁場など、お一人でぐんぐんと舞台をけん引なさったのに驚きました。
 エギルス・シリンスさんはベテランの味わい。キウリさんとの悪者コンビがドラマを盛り上げました。

 

 今回の大きな変更は、これまでのスクリーン映像上映を廃して、普通に反響版を取り付けたことでしょう。映像にイメージを助けられるのも鑑賞の手立てではございますが、妨げられる場合も無きにしも非ずゆえ、純粋に音楽だけの方がよろしいかも知れません。それに、反響版のおかげでぐんと音がよくなったことはなによりの恩恵でございます。かくして、マエストロ・ノフスキの爽快なテンポと圧倒的な牽引力により、白鳥の騎士の寓意に富んだお話を弛緩なく噛みしめることができました。

 その寓意の一つとして、今回、非常に重く受け止めましたのは、第一幕幕あけのドイツ国王ハインリヒの次のような言葉でした。、

 

「ブラバントの者どもよ!お前達に神のご加護を!

私があえて出向いのは、ほかでもない、王国の危機を告げるためである。

このドイツの地に幾度も東方から危機が迫っていることは、

私が敢えて語るまでもあるまい!

東の辺境の地では、女子供の泣き叫ぶ声が聞こえる・・・

神よ!猛威を振るう、○○国(露国)から我らを守りたまえ!

かくなる恥辱を終わらせることこそ、王国の長である私の使命なのだ」

 

 ふつつかにも、わたくしが今まで、あまり深く注意を払ってこなかった、ドイツ国王ハインリヒのこの言葉こそ、現ウクライナのゼレンスキー大統領の血を吐くような訴えに重なります。

 歴史はこのように、同じわだちを踏んできたのでしょうか。

 だとすれば、悲しく、情けないことでございます。しかしながら、わたくしは、少なくともまったく同じわだちであるはずがないと、正義と良心を大切にする人間の力を信じたく存じます。

 《ローエングリン》、たいへんすばらしい上演でございました。

 明日、42日に、2回目、そして最後の上演が15:00より東京文化会館大ホールにおいて開催されます。ご関心とお時間のあられる方は、是非お出かけくださいませ。

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