ヴァイオリン界の現役最長老、小林武史先生は昨年卒寿をお迎えになられました。その記念として、1979年3月8日に先生がチェコで世界初演なさった、伊福部昭のヴァイオリン協奏曲第2番が初CD化されました。その貴重な一枚を先生からご恵与いただき、謹んで拝聴いたしました。
この協奏曲は、武史先生が伊福部先生に「おねだりして書いていただいたもの」で武史先生が第二の故郷、チェコのブルノでズデニェック・コシュラー指揮、チェコ国立ブルノ・フィルハーモニー管弦楽団との協演で世界初演なさいました。初演への準備として、初演年の年頭に東京音楽大学内で三石精一先生指揮の団体名不詳のオーケストラとの試演会、及びピアノリダクション版の試演があったそうで、その二つの機会の貴重な録音も、初演に至るドキュメントとしてディスクに収録されました。さらに、1988年に武史先生が文化庁の芸術祭賞を受賞されたときの祝賀会における、伊福部先生の乾杯のご挨拶も最後に入っています。これらの音源は、武史先生のおてもとにあった、6ミリマスターテープということにも驚きました。
高い技術を用いてCDとなり、再生させていただいた音は、43年前の録音とは思えないほど生気に満ち、ヴァイオリンという楽器特有の香気と潤湿感、粘りのようなものをまことに生々しく伝えています。
曲の冒頭はG線の印象的なモノローグ。無念無想のようにも響き、ときになまめかしく艶やかにも朗々と語られるこのレチタティーボに一旦オーケストラが呼応しますが、すぐにまた、ソロのレチタティーボとなってひとしきり続き、何事かを切々と訴えかけてくるのです。
聴き手の心をぐっと引き込むこの開始部は、「指揮者に先導されるのではなく、自分から出たい」という武史先生のリクエストを容れたものだそうで、武史先生らしい暴れん坊ぶりと覇気、そのご要望に見事にお応えになられた伊福部先生の力量にも打たれました。
曲はそのあと本格的にオーケストラが入って、また、カデンツァ風ソロがあり、次いで両者熱量を増していって大きなclimaxを築いていきます。
武史先生のソロの音の、なんとしなやかで、聴き手を引きこむ魔力のようなものを具えていることでしょう。
日本人作曲家のヴァイオリン協奏曲屈指の名作として、長く、愛奏、愛聴されていっていただきたい名曲だとつくづく思いました。
小林武史先生、世界初演の初CD化、おめでとうございます。
2022年1月17日記
この協奏曲は、武史先生が伊福部先生に「おねだりして書いていただいたもの」で武史先生が第二の故郷、チェコのブルノでズデニェック・コシュラー指揮、チェコ国立ブルノ・フィルハーモニー管弦楽団との協演で世界初演なさいました。初演への準備として、初演年の年頭に東京音楽大学内で三石精一先生指揮の団体名不詳のオーケストラとの試演会、及びピアノリダクション版の試演があったそうで、その二つの機会の貴重な録音も、初演に至るドキュメントとしてディスクに収録されました。さらに、1988年に武史先生が文化庁の芸術祭賞を受賞されたときの祝賀会における、伊福部先生の乾杯のご挨拶も最後に入っています。これらの音源は、武史先生のおてもとにあった、6ミリマスターテープということにも驚きました。
高い技術を用いてCDとなり、再生させていただいた音は、43年前の録音とは思えないほど生気に満ち、ヴァイオリンという楽器特有の香気と潤湿感、粘りのようなものをまことに生々しく伝えています。
曲の冒頭はG線の印象的なモノローグ。無念無想のようにも響き、ときになまめかしく艶やかにも朗々と語られるこのレチタティーボに一旦オーケストラが呼応しますが、すぐにまた、ソロのレチタティーボとなってひとしきり続き、何事かを切々と訴えかけてくるのです。
聴き手の心をぐっと引き込むこの開始部は、「指揮者に先導されるのではなく、自分から出たい」という武史先生のリクエストを容れたものだそうで、武史先生らしい暴れん坊ぶりと覇気、そのご要望に見事にお応えになられた伊福部先生の力量にも打たれました。
曲はそのあと本格的にオーケストラが入って、また、カデンツァ風ソロがあり、次いで両者熱量を増していって大きなclimaxを築いていきます。
武史先生のソロの音の、なんとしなやかで、聴き手を引きこむ魔力のようなものを具えていることでしょう。
日本人作曲家のヴァイオリン協奏曲屈指の名作として、長く、愛奏、愛聴されていっていただきたい名曲だとつくづく思いました。
小林武史先生、世界初演の初CD化、おめでとうございます。
2022年1月17日記
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