愛知室内オーケストラとゲルハルト・オピッツさんのベートーヴェン・ピアノ協奏曲全6曲演奏会を12月27日、28日の2夜連続で拝聴いたしました。えっ、全6曲???と思われるかもしれませんが、全6曲ということになったのは、ヴァイオリン協奏曲ニ長調からベートーヴェン自身がピアノに移し替えた作品が入っているからです。この曲には通し番号はなく『ピアノ協奏曲ニ長調』作品61とされています。今回の全曲演奏会に当たって、これを入れたので、全6曲となりました。
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   第2夜に演奏されたこのニ長調協奏曲が、実に闊達な名演でした。特に面白かったのは、ベートーヴェン自身の書いた第1楽章のカデンツァです。この曲はそもそも、冒頭ティンパニの4つの音が全曲を貫くモティーフになっていますから、ベートーヴェンはカデンツァでもその性格を喚起して、後半にピアノとティンパニの掛け合いを採り入れ、軍隊行進曲風に進行させました。それを、オピッツと女性ティンパニストの安江さんが阿吽の呼吸で生き生きと聴かせてくださったのです。
 この編曲作品の成立時期は、第4番(1805~06年)と第5番(1809年)の間にあたる1807年。原曲のヴァイオリン協奏曲のほうは、1806年11月~12月に書き上げられ、12月23日に依頼者フランツ・クレメントによって初演されています。その原曲をベートーヴェンは翌年、ピアノに移し替えたわけですが、直接の編曲動機は出版業者のクレメンティからの依頼。曲は、親しい友シュテファン・ブロイニングの新婚の妻、20歳のピアニスト、ユーリエさんにさ捧げられています。でもユーリエさんは間もなく、佳人薄命を地でいってしまわれるのです。  
 そんな悲しいエピソードにも思いを馳せながら、オピッツさんの名演を堪能いたしました。
 なお、オピッツさんの全集にはこの「ニ長調協奏曲」がちゃんと入っています。
 さすがでございます。
                                   2021年12月29日記