2017年からシカゴ・オペラ劇場の音楽監督を務めるリディア・ヤンコフスカヤさんは1986年3月26日生まれの現在35歳。全米のメジャー・オペラ・カンパニーのうち、女性の音楽監督を戴くのはシカゴのみ。この劇場にとっても、初の女性音楽監督です。
サンクトペテルブルク生まれ、少女時代にバレエとピアノ、歌を習い、歌手の母親の導きでプロコフィエフのオペラ『3つのオレンジへの恋』に定期的に出演、9歳で母親と合衆国に移住、ピアノ、ヴァイオリン、音楽全般を学ばれました。学生時代にモーツァルトのピアノ協奏曲のソロを弾いた時、彼女が指揮者に向いているのでは、と感じた指揮者のジェフ・ヘルチェンロダーの推薦で指揮者を目指すことになり、ドヴォルザークの7番で指揮者デビュー。以後堅実にステップアップされてきました。
その若き女性マエストロの快挙というのは、今月半ば、彼女が自分のホームグラウンド劇場で、マーク・アダモの一幕オペラ『サンタクロースになる』の最終公演を指揮したことです。
それがなぜ快挙なのかというと、実はリディアさんはその3日前に、赤ちゃんをお生みになられたばかりだったからなのです。そして、多くの聴衆はそのことにまったく気づきませんでした。
リディアさん自身、この成功について、次のように話されています。
「とても幸運でした。わたしを110パーセント信じ、支えてくれた劇場スタッフたち、あらゆる準備を美しく整えてくれたアシスタント指揮者のイーライ・チェンはじめ、制作チーム全体に感謝します。わたしが指揮の仕事を始めたとき、何人もの方が、「肉体上の理由」のために女性がこの仕事をすべきではないと言いました。わたしが最初の子供を産んだときも、いろいろな人からこんなことを言われたものです。おなかの大きな指揮者なんて誰も見たくはないね、母親になったら新生児の世話をしているうちは指揮ができないだろう、子どもを持った女性は指揮者のキャリアをあきらめるべきだ……。
こうしたことを言われるうち、女性が指揮者となって子どもを持った場合の、ロールモデルが合衆国にはまだなかったことに気づきました。
その道を照らしてくださったマエストロ・シモーネ・ヤングと、彼女の仲間のマエストロ・オージー・ジェシカ・ゲティンとマエストロ・ナタリー・マレー・ビールに感謝します。先輩たちはわたしに、たくさんの「ホラーストーリー」を話してくださいました。おかげで、心構えは出きていたとはいえ、たしかに、わたし自身もそういう思いをいたしました。
今回、わたしがこのようなことをできたのも、シカゴ・オペラ劇場か本当に素晴らしい音楽組織であって、非常に魅惑的な同僚に囲まれていたおかげです。幸運としかか言いようがありません。
先輩女性指揮者の方たちやわたし自身が体験した、この愚かな性差別の汚名が消えることを祈ります。妊娠と出産は個人的な問題です。他の人が、その女性に代わって彼女の行動能力を定義してはなりません。
しかしながら、すべての女性が同じレベルの健康やサポートを持っているわけではないことにはくれぐれもご注意ください。わたしの場合は非常に幸運だったのです」。
リディアさんのコメントがすべてを物語っていると存じますが、たしかに彼女のケースは、彼女が健康体の持ち主であったこと、少女時代にバレエを習っておられたこと、初産ではなかったこと、周りの方々の全面サポートに恵まれたことが、出産3日後のオペラ指揮を可能にしたのでしょう。でも、いまだにこれほど強い女性指揮者への風当たりの中で彼女を110パーセント信じ、全面バックアップしたというシカゴ・オペラの皆様は本当にご立派、それも、日頃から築き上げた信頼関係の成果に他ならないと存じます。
クリスマスの直前に生まれた坊ちゃんは、リディアさんとシカゴ・オペラ・チーム全体の宝の御子となられました。
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2021年12月25日
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