今年の読響の第九は6公演。その一つ、1222日のサントリーホール公演を聴かせていただいてまいりました。指揮者は当初、フランチェスコ・アンジェリコさんが予定されていましたが来日叶わず、次に依頼したアレホ・ペレスさんもまたまた入国できず、入国制限発令以前から日本に滞在していたアメリカ人指揮者、ジョン・アクセルロッドさんに白羽の矢が立ちました。

OIP
 1966年ヒューストン生まれ、バーンスタインと、イリヤ・ムーシンに師事されたマエストロです。偶々日本におられた巡り合わせから、あちこちのオーケストラの救いの神となられ、先週は都響でチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲と『火の鳥』を代演なさったばかり。年が明けると今度はN響でマーラー4番を、これも代演なさいます。

 アクセルロッドさんというお名前からはアクセルをぐっと踏み込む爆演型のマエストロかと思われるかも知れませんが、さにあらず。中庸を重んじてよくバランスをとり、かつ、弦のレガートを大切になさって流麗に歌われるマエストロでした。

オーケストラは、意外にも、10-8-8-6-5の小さめの編成。ヴィオラ外側の通常配置で下手にティンパニ。林悠介コンマスの脇を長原幸太さんが固めるダブル・コンマス体制は盤石で、この陣容から無駄のない最大値の音響が生まれていました。テンポは速からず遅からず、恣意的な揺らしもなく、響きは明るく爽快でした。第4楽章冒頭のオーケストラの総奏も濁りがなく上品に鳴らされましたので、この部分が第九成立時当時の不穏な世の喧騒を表している、という解釈でないことがわかりました。

合唱は新国立劇場合唱団の精鋭40名。ソプラノは、新国立劇場『蝶々夫人』で大成功を収めたばかりの中村恵理さん、アルト・パートにはカウンターテナーの藤木大地さん、テノールは近年ぐんぐんと評価を高めている小堀勇介さん、バスは大ベテランの妻屋秀和さん。

合唱は第2楽章と第3楽章の間にP席に入場しましたが、ソリスト登場のタイミングというのが、なんと、その前の晩に東京芸術劇場で体験させていただいたBCJ第九と全く同じく、第4楽章のバリトン(バス)独唱直前に妻屋さんが上手から飛び込んで「おお、友よ、この調べではなく・・・・」を歌い、続いて下手からお三方が入場されるというスタイルでした。

この方法ですと、ソリストを迎える盛大な拍手によって音楽の流れが中断されずに済みますし、バリトン独唱の劇的効果も高まって、なかなかうまい演出に思えました。今後、この方式が増えるも存じません。                                 2021年12月23日記