昨晩、東京芸術劇場でバッハ・コレギウム・ジャパンの「クリスマス・スペシャル・コンサート』を拝聴してまいりました。メイン曲はベートーヴェンの第九ですが、「クリスマス・スペシャル」と銘打たれているだけあって、前半のプログラムも多彩なアイディアの凝らされた、まことに充実したものでした。首席指揮者の鈴木優人さんはオルガニスト、チェンバリスト、編作曲家でもあるマルチ音楽家でいらっしゃいますので、まず幕開けに、J.S.バッハの『パストラーレ ヘ長調』を、厳めしい外観と低い音響を持つドイツ・バロック式のオルガンで独奏、次いでバッハ・コレギウム・ジャパンの声楽アンサンブルが優人さん編曲の『まきびとひつじを』『きよしこの夜』『キャロル・メドレー』を敬虔な響きできよらかに歌い上げました。2曲目からは、さまざまな状況の子どもと若者が手の表現で歌う、ホワイトハンドコーラスNIPPONも参加されました。
 ここまででも充分にクリスマスの雰囲気を味わわせていただけましたが、何と、優人さんのサービス精神はこれにとどまることなく、もう1曲、オルガンを聴かせてくださるとおっしゃいます。
 しかも、先ほどはドイツ・バロックのバッハだったので、今度はフランス・バロックのダカンを弾いてくださるとのこと、そして、それにはそれにふさわしい楽器で、とおっしゃり、オルガンに呪文をおかけになると、あらあら不思議、あの巨大なオルガンがゆっくりと回転し始めました。そのすきに、優人さんは素早くオルガン席へと移動。180度の回転が止まりますと、そこにはまったく外観の異なる、フランス、ガルニエ社製のモダンタイプのオルガンが出現したのです。
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 そうです。この会場は世界でもめずらしい回転式のリバーシブル・オルガンを有しているのです。せっかくの機会なので、回転する様子もみせてくださり、2種の弾きわけも聴かせてくださろうというアイディアでした。
 その煌びやかな音色は、先ほどのドイツ・バロック式オルガンとはまるで異なっていて、2つの響きを贅沢に耳にさせていただきました。
 後半が、いよいよ第九です。声楽アンサンブルもオーケストラも新しいメンバーが増えていて、ソプラノ10、アルト9、テノール7、バス8、弦は8-8-6-4-3でした。
 ソリストは、バスが大西宇宙さん、テノールが西村悟さん、ソプラノが中江早希さん、メゾ・ソプラノが湯川亜也子さん、第4楽章が始まり、いよいよバス(バリトン)独唱というときになってまず、大西さんが入られて歌われ、そのあと、お三方が登場という趣向でした。
 優人さんはかなり速めのテンポで開始されましたが、第3楽章はよく歌われ、歓喜の歌の終楽章も豊かな起伏を付けながら進み、煽り過ぎずに聴き手の共感を確実に高めながら終盤を迎えて、気持ちよく全曲を結ばれました。
 この曲はベートーヴェンの人類友愛思想の反映ですから、さまざまな共鳴の仕方、表現があるのは当然で、それを発信するのは作品の理念に適うに違いございませんが、そもそも、ベートーヴェンの音楽があまりにも素晴らしく、指揮者、オーケストラ、ソリスト、合唱と、見どころ、聴きどころにあふれていますので、それらを味わわせていただくだけで、もう充分にありがたいことに思っております。
                                        2021年12月22日記