ミッシャ・エルマン、エフレム・ジンバリスト、ヤッシャ・ハイフェッツ、とともに「アウアー門下の四天王」と目される、ナタン・ミルシテインは、90歳のお誕生日を10日後に控えた1992年の本日、ロンドンで満89歳の生涯を閉じられました。名ヴァイオリニストをあまた輩出したオデッサのお生まれ。幼児期からヴァイオリンを始め、11歳からペテルブルク音楽院でアウアーに師事されました。しかし1917年にロシア革命が勃発して師のアウアーがノルウェーに逃れたため、師事した期間は3年ほどでした。その後、1920年代半ばにイザイの教えを受けた時期があり、そのため、フランコ・ベルギー派の柔らかな奏法と格調高いスタイルを身につけられたのでしょう。気品ある演奏から「ヴァイオリンの貴公子」と呼ばれました。アウアー四天王の中でも最も若く、長く存命されましたので、往年の名ヴァイオリニストというよりは、20世紀を代表するヴァイオリニストのお一人と、認識してまいりました。
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 本日は19回目のご命日ですので、この小品集を聴かせていただいておりますが、あらためて、この貴公子様が高度な技巧と知的洗練、高貴な演奏スタイルの持ち主でいらっしゃることに感動いたしました。
 演奏の気品、というものはおのずと具わったものではあるでしょうが、弾き手もそれを目指していただき、聴き手もそれに敏感でありたいものと存じます。
                                       2021年12月21日記