2月13日15:00から東京文化会館小ホールで開催されたテノール歌手フランチェスコ・メールのリサイタルを拝聴いたしました。メーリは今、イタリアで一番人気のテノールで、先頃プッチーニ『トスカ』カヴァラドッシ役の新国立劇場初出演でも話題を呼んだ方です。こちらが新国立劇場、メーリのカヴァラドッシ。わたくしは1月25日に拝見しました。
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 まずそのお話を先にいたしますと、『トスカ』の指揮者、演出家、キャストは下記でした。
■新国立劇場【トスカ】

指揮:ダニエレ・カッレガーリ

演出:アントネッロ・マダウ=ディアツ

トスカ:キアーラ・イゾットン

カヴァラドッシ:フランチェスコ・メーリ

スカルピア:ダリオ・ソラーリ

アンジェロッティ:久保田真澄

スポレッタ:今尾 滋

シャルローネ:大塚博章

堂守:志村文彦

看守:細岡雅哉

羊飼い:渡邉早貴子

合唱:新国立劇場合唱団

管弦楽:東京交響楽団 

こんなに豪華な外国人キャストを揃えることができたのは、彼らは昨年1228日に日本が新規入国を停止する直前にVISAを取得し、27日~31日に駆け込み来日を実現させたためでした。とはいえ、そのあとには14日間の待期期間が待ち受けていますので、その期間にかかっているうちはオンラインでリハーサル参加したということです。

 さて、それほどのハードルを乗り越えてカヴァラドッシを歌ってくれたメーリはまさに圧巻。無尽蔵とも思えるゆたかな声量はもとより、やわらかな声質と声の温かみ、ニュアンス、表現力、演技力をすべてを兼ね備えていて、プッチーニ・テノールとはこのような歌手のことであったのかと驚嘆し、カルチャーショックさえ感じるほどでした。

そのメーリが、『トスカ』全公演終了後も日本に残り、びわ湖ホール、しらかわホール、及び、東京文化会館でリサイタルを開いてくれたというわけです。ですから、メーリの実力は『トスカ』でとくと拝聴済みではありましたが、リサイタルではオペラと違い、彼の地のキャラクターがステージマナーのはしはしに現れて、それが実に人懐こい、人間味あふれるものでしたので、名唱がひときわ精彩を帯びて、別次元の感動がありました。

歌手はどなたもそうですが、体全体が楽器です。メーリは特に大柄な方ではありませんけれども、中肉中背よりは長身のすらりとした筋肉質の体形で、そのがっしりとした厚みある胸郭の奥深いところから、どこまでも果てしなく伸びる声を惜しみなく出して、体全体を使って朗々と響かせていました。

予定されていたイタリア人伴奏ピアニスト、ダヴィデ・カヴァッリは来日不能となり、ベテランの浅野菜生子さんがたいへんご立派にピアノを弾かれて、メーリと息の合ったところを見せておいでだったのも、嬉しいことでした。

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プログラムは下記のように、最初がロッシーニ、ドニゼッティ、ベッリーニ、次が、メーリの友人でもある現代イタリアの作曲家ルイージ・マイオが、かのミケランジェロの詩をテキストとして書いた4部作の世界初演、後半はトスティ歌曲、マスネ、ヴェルディ、ジョルダーノ、プッチーニのオペラ・アリアでした。

そこまでで、やや早めの16:30すぎに、これだけでも変化に富んだ充実の本プログラムが終わリ、メーリ様、お疲れ様でした。ところが、驚きはその後でした。

23曲のアンコールは期待していたのですが、1曲、また、1曲と続き、これで終わりかと思った時、スタッフが現れてピアノの鍵盤を拭き始めました。さては、鍵盤が滑ってピアニストが弾きにくくなられたのかしら?と思っていますと、今度はメーリが一人で登場して、ピアノの椅子に。ああ、そういうことだったのですね。

ちょっと指慣らしをしてから、メーリがおもむろに弾き始めたのは、トスティ『かわいい口元』の前奏です。そして、弾き歌いでしっとりと優美に、全曲を歌いあげました。なんという芸達者。ピアノまで聴かせていただいてありがたいことです。

ところが、これで終わりではなく、なんとこのあと再び鍵盤がアルコール消毒されてピアニスト登場、さらにレハール、カルディッロと続き、『オー・ソレ・ミオ』が歌われましたので、いくら何でもこれで締めであろうと思うとさにあらず、メーリは、客席の「ブラボー幕」を掲げている人に感謝の合図を送り、さらにアンコールを重ねます。『トスカ』の『妙なる調和』です。これには拍手は最高潮に達し、スタンディング・オベーションがさらに増えました。そして最後のとどめが『椿姫』の『燃える心を』でした。

何とアンコール10曲。1時間たっぷり。これだけで立派なリサイタルです。最後まで疲れもみせずに歌い切り、両手を高く掲げてほぼ総立ちの聴衆に応えたメーリ。わたくしは、カルディッロ『カタリ、カタリ』から立たせていただきましたが、もっと早く立てばよかった!

イタリア人テノールの神髄をこの方にみる思いがいたしました。 

213日 東京文化会館フラチナ・シリーズ

テノール:フランチェスコ・メーリ

ピアノ:浅野菜生子

【曲目】

ロッシーニ:「音楽の夜会」より「約束」

ドニゼッティ:ああ、思い出しておくれ、美しいイレーネ

ベッリーニ:お行き、幸せなバラよ

ルイージ・マイオ:アルケミケランジョレスカ【世界初演】~ミケランジェロの 火、風、地、水の詩によせて~

肉は地となり(詩篇197215110

私は水となり(詩篇231

どれほどの木や風が(詩篇57

火はすべての害となるだろう(詩篇122

トスティ:最後の歌/理想の人/君なんかもう愛していない/魅惑/夢

    ~休憩~

マスネ:メロディ Op.10-5[ピアノ独奏]

マスネ:オペラ『マノン』より「目を閉じれば」(夢の歌)

ヴェルディ:オペラ『ルイザ・ミラー』より「ああ!自分の目を信じずにいられたら~穏やかな夜には」

ジョルダーノ:オペラ『フェドーラ』より「愛さずにはいられぬこの想い」

プッチーニ:オペラ『トスカ』より「星は光りぬ」 

【アンコール】

デ・クルティス:忘れな草

トスティ:暁は光から闇をへだて

ドニゼッティ:オペラ『愛の妙薬』より「人知れぬ涙」

レオンカヴァッロ:マッティナータ (朝の歌)

トスティ:かわいい口元(メーリ本人がピアノを弾きながら)

レハール:喜歌劇『ほほえみの国』より「君はわが心のすべて」

カルディッロ:カタリ・カタリ(つれない心)

ディ・カプア:オー・ソレ・ミオ

プッチーニ:オペラ『トスカ』より「妙なる調和」

ヴェルディ:オペラ『椿姫』より「燃える心を」

■メーリの『星は光ぬ』はこちらから

(334) Puccini, Tosca - E lucevan le stelle (Francesco Meli) - YouTube

 なお、このあとわたくしは、山手線のどちら周りでもほぼ同じだったのに今ではこちらが近くなった内回りに乗って渋谷まで行き、田園都市線二子玉川駅徒歩数分の『オーキッド・ミュージック・サロン』まで足を延ばし、「毛利文香・水野優也 ヴァイオリンとチェロのデュオ』を聴いてまいりました。ラヴェルのソナタとコダーイの二重奏曲を一度に、しかも若手実力派の白熱の名演で聴かせていただくことができ、幸せな一日となりました。
 幸せの仕上げは、あんな疲れる大曲を昼夜二公演もお弾きになって疲労困憊のはずの毛利文香さんが、日付の変わらないうちに送ってくださった心温まるお礼メールでした。   
                                         2021年2月14日記