本夕、サントリーホールで開かれた読売日本交響楽団第621回定期演奏会で、同響常任指揮者セバスティアン・ヴァイグレさん指揮によるブラームス『ドイツレクイエム』+1曲を拝聴してまいりました。+1曲というのは、前プロとして演奏された、1961年生れ、アメリカの作曲家ダニエル・シュニーダーの『聖ヨハネの黙示録』です。こちらは非常にエキサイティングな、味わいの濃い音楽作品で、やはり聖書という泉は汲めども尽きぬ音楽インスピレーションの宝庫だと思わせるものがございました。
 後半のブラームス『ドイツ・レクイエム』とはずいぶんと毛色の異なる、このはじけた、アクの強い楽曲が前半を彩ったのは、もしかしたら、声楽ソリスト、合唱、またオーケストラ編成の近似性の故だったのかも存じません。
 それはともかく、後半のメイン・プログラム、ブラームス『ドイツ・レクイエム』はとてつもなく圧巻でございました。
 その成功要因の一つは、新国立劇場合唱団、女声30名、男声28名のため息の出るほどお見事な合唱にありまして、この鍛え上げられ練り上げられた合唱に接して、この作品がいかにコーラスに多くを負うているか改めて痛感いたしました。しかしもちろん、ヴァイグレさんの棒にぴたりと寄り添ったオーケストラの名演と、ソプラノのファン・スミさん、バリトンの大西宇宙さんの名唱も湛えなければなりません。第1曲のテーマの刻印の仕方、第2曲の葬送行進曲における合唱と、ことにティンパニ・ワークの能弁さ、第3、第6曲のバリトン独唱のすばらしさ、第5曲のあまりに美しく、声量も表情も豊かなソプラノ独唱を特筆しないわけにはまいりませんし、終曲の感動的な結び、ヴァイグレさんが両手をあげたまま、客席一同、1分近く身じろぎもせず、お手がおろされてもまだ皆様まだ我慢なさり、指揮棒を譜面台におかれてから、ついに沸き起こった拍手に、わたくしども聴き手の最大限の満足と、演奏家へのオマージュをひしひしと感じたのでした。
 通常のラテン語ではなく、プロテスタントゆえにドイツ語テキストに書かれた、このきりりとしたレクイエムは、日本で申せば、ちょうど、明治維新の年1868年に書きあがり、翌1869年に初演されて大成功を収め、まだ30代半ばのヨハネスの星を高く昇らせました。
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 彼がこの、教会での追悼ミサ用ではなく、純オーケストラコンサート・ピースとして、しかしながら、敬虔な響きにあふれたこの作品を着想したのは、彼を世に出してくれた大恩人、ロベルト・シューマンの死が原点となったようです。
 だとしたら、とても胸が打たれます。
                                    2022年9月20日記