わたくしは、1980年代に『ヴァイオリン一挺 世界一人歩き』というご本と出会い、滂沱の涙とはこのことかと思えるほどの涙とともに、何度も何度も目頭を熱くしながら、この貴重なご本を読ませていただきました。それから長らくご本の著者、小林武史先生のリサイタルを拝聴させていただく機会がなかったのですが、近年、その機会に何度も恵まれ、ご本を拝読した時以上の、と申しますよりも、ついにご本の内容と一体となった、小林武史先生の筋の通ったヴァイオリンに触れ、これぞ、わたくしたちが真摯に耳を傾けるべきヴァイオリンの音であったのだと、魂を粛清される思いでおりました。
 本日11月7日は、その小林武史先生の、90歳のリサイタルが、浜離宮朝日ホールでございました。
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 先生の、音量こそ控えめになられましたが、聴く者の琴線にふれてやまないヴァイオリンの音色、長らくその地に暮らされて血肉となられたチェコ音楽の表現力は、本日もわたくしの心を熱くしてやみませんでした。野平一郎先生のすべてを噛み分けたピアノで演奏されたのは、次のプログラムでございました。

 ヤナーチェク:ヴァイオリン・ソナタ
 ヤナーチェク:ドゥムカ
 ドヴォルザーク:ソナチネ
 スメタナ:わが故郷より 第1番、第 2番

 会場の浜離宮朝日ホールは、実に多くのお客様で埋まりました。休憩時間にロビーでお話した、徳永二男先生も、小林武史先生の演奏に驚嘆しておられました。
                                       2021年11月6日記